第573章 深い愛と彼との、思いがけない出会い（33）

あれは『三千の狂い』の千歌の素晴らしい演技ではなく、明らかに彼女が『盛唐風雲』で撮影しているシーンだ。

しかし、映像のカメラの視線は彼女に向けられているのではなく、撮影エリアの外に立ち、スマホを持って彼女の演技を録画している少女に向けられているようだ。

その少女は森川記憶に背を向けていたが、森川記憶は一目で彼女が自分のアシスタントの鈴木遥だと分かった。

鈴木遥が彼女の演技を録画して何をするつもりだろう？

疑問が森川記憶の頭をよぎった瞬間、大スクリーンの映像が変わった。

依然として鈴木遥だが、今度は深夜にホテルから出てきて、ホテルの入り口に立ち、左右を見回した後、人がいないことを確認してから、急ぎ足でホテル近くの観光地の假山（人工の山）の裏へと走っていく。

この映像は、おそらく誰かが偶然撮影したものだろう。鈴木遥が假山の裏に入ると、画面から人影が消え、虫の鳴き声以外には何の音も聞こえなくなった。

約3秒後、声が聞こえてきた。他の人には誰の声か分からないかもしれないが、森川記憶は一言聞いただけでそれが鈴木遥の声だと分かった。「今日の森川記憶の撮影映像は、全部このスマホに入っています。」

假山の裏には、鈴木遥以外にも誰かがいるようだ。おそらくスマホの映像をチェックしているのだろう。時々、撮影現場での監督の「スタート」という声が聞こえてくる。約30秒後、別の声が聞こえてきた。その声は非常に小さく抑えられていたが、特有の柔らかな声質から、誰もがそれが千歌の声だと分かった。「出てくるとき、誰かに見られなかった？」

「いいえ、千歌さん、ご安心ください。私はいつも細心の注意を払っています。」もし先ほど誰の声か分からなかった人がいたとしても、今鈴木遥が口にした「千歌さん」という一言で、この授賞式を見ているすべての人に、假山の裏にいる人物が鈴木遥と千歌だということが分かったはずだ。

大スクリーンの映像はここで突然終わった。

カメラはテレビ授賞式の会場に戻った。男女の司会者は約10年間番組の司会を務め、あらゆる困難を乗り越えてきたが、この瞬間、映像の中のシーンに衝撃を受けたようで、二人とも明らかに呆然とした表情を浮かべていた。

傍らに立っていた千歌は、両手でマイクを握り、大スクリーンを見つめたままの姿勢で、動かなかった。

ステージ下も静まり返っていた。