第215章 【215】南条陽凌が負傷1

彼女の全身、心臓がドキンと強く震えた。

あの人は……

彼女がはっきり見る前に、すでに通り過ぎていた。気づいた時には、森の中のあの人はもう姿を消していた。

自分の目の錯覚だったのだろうか?

なぜ、あの人が、以前の自分にそっくりだと感じたのだろう?

夏野暖香は胸に手を当て、心臓が激しく鼓動していた。

そのとき、突然、小さな狐が森から飛び出してきた。

足元の馬が驚いて、跳ね上がった。

夏野暖香は対応できず、あわや落馬しそうになった。

最終的に馬の背中にうつ伏せになった。

馬は狂ったように前方へ疾走した。夏野暖香は恐怖で顔色が青ざめ、悲鳴を上げた。

遠くにいた南条陽凌と橋本健太たちは、みな驚いた。

南条陽凌は何も言わず、馬に飛び乗って追いかけた。

橋本健太も馬に乗り、驚いた小さな馬を止めようとした。

夏野暖香は馬の背で、体がぐらぐらと揺れていた。

「手綱をしっかり握って!馬の首に抱きついて、絶対に離さないで!」南条陽凌の叫び声が聞こえた。

周囲は天地がひっくり返るように揺れていた。

小さな馬がカーブに差し掛かった時、横から駆けつけてきた橋本健太の馬が突然、背中を跳ね上げた。

橋本健太の驚いた視線が、茂みの一角に向けられた。

そして既に驚いていた小さな馬は、この光景を見て、突然倒れた。

暖香ちゃんの体が宙に浮いた。

夏野暖香はそれに伴い、後ろに投げ出された。

後ろから追いかけていた南条陽凌が、猛然と前に飛び出し、手を伸ばして夏野暖香をキャッチした。

そして二人とも、草地に倒れ込んだ。

一方、同時に倒れたのは橋本健太もだった。

二頭の馬が同時に驚き、もう一頭の馬も倒れ、橋本健太は馬の背から転がり落ちた。

「兄さん!健太!」南条慶悟が叫びながら駆け寄った。

夏野暖香の頭は真っ白になり、数秒後にようやく状況を理解した。

彼女は南条陽凌の腕の中にいた。

そして南条陽凌は彼女の下で、肉のクッションになっていた。

「あっ……」

「大丈夫?」南条陽凌が尋ねた。

「だ……大丈夫……」夏野暖香は擦りむいた腕と膝をさすりながら、地面から立ち上がった。

南条陽凌も立ち上がった。

しかし、南条陽凌の足はねじれていた。

夏野暖香を抱きかかえて落下したため、足首が地面に直接ぶつかっていた。

まったく動けなかった。