彼女の全身、心臓がドキンと強く震えた。
あの人は……
彼女がはっきり見る前に、すでに通り過ぎていた。気づいた時には、森の中のあの人はもう姿を消していた。
自分の目の錯覚だったのだろうか?
なぜ、あの人が、以前の自分にそっくりだと感じたのだろう?
夏野暖香は胸に手を当て、心臓が激しく鼓動していた。
そのとき、突然、小さな狐が森から飛び出してきた。
足元の馬が驚いて、跳ね上がった。
夏野暖香は対応できず、あわや落馬しそうになった。
最終的に馬の背中にうつ伏せになった。
馬は狂ったように前方へ疾走した。夏野暖香は恐怖で顔色が青ざめ、悲鳴を上げた。
遠くにいた南条陽凌と橋本健太たちは、みな驚いた。
南条陽凌は何も言わず、馬に飛び乗って追いかけた。
橋本健太も馬に乗り、驚いた小さな馬を止めようとした。
夏野暖香は馬の背で、体がぐらぐらと揺れていた。
「手綱をしっかり握って!馬の首に抱きついて、絶対に離さないで!」南条陽凌の叫び声が聞こえた。
周囲は天地がひっくり返るように揺れていた。
小さな馬がカーブに差し掛かった時、横から駆けつけてきた橋本健太の馬が突然、背中を跳ね上げた。
橋本健太の驚いた視線が、茂みの一角に向けられた。
そして既に驚いていた小さな馬は、この光景を見て、突然倒れた。
暖香ちゃんの体が宙に浮いた。
夏野暖香はそれに伴い、後ろに投げ出された。
後ろから追いかけていた南条陽凌が、猛然と前に飛び出し、手を伸ばして夏野暖香をキャッチした。
そして二人とも、草地に倒れ込んだ。
一方、同時に倒れたのは橋本健太もだった。
二頭の馬が同時に驚き、もう一頭の馬も倒れ、橋本健太は馬の背から転がり落ちた。
「兄さん!健太!」南条慶悟が叫びながら駆け寄った。
夏野暖香の頭は真っ白になり、数秒後にようやく状況を理解した。
彼女は南条陽凌の腕の中にいた。
そして南条陽凌は彼女の下で、肉のクッションになっていた。
「あっ……」
「大丈夫?」南条陽凌が尋ねた。
「だ……大丈夫……」夏野暖香は擦りむいた腕と膝をさすりながら、地面から立ち上がった。
南条陽凌も立ち上がった。
しかし、南条陽凌の足はねじれていた。
夏野暖香を抱きかかえて落下したため、足首が地面に直接ぶつかっていた。
まったく動けなかった。