第606章 先に味見させてもらおう

三十歳くらいの、目尻に刀傷のある男が入ってきた。その後ろには二人の屈強な男が続いていた。

「やあ、お嬢ちゃん、目が覚めたか？」男は彼女を見て眉を上げて言った。

夏野暖香は急いで身を引き、警戒しながら尋ねた。「あなたたちは誰？なぜ私を捕まえたの？」

その男は彼女の側に歩み寄り、しゃがみ込んで、手を伸ばして彼女の顎を持ち上げた。

「お前は夏野暖香だな？」彼は険しい表情で尋ねた。

夏野暖香は一瞬固まった。

「あなたたちは私を知っているの？なぜ私を捕まえたの？」

彼女の言葉が終わるか終わらないかのうちに、その男は突然手を振り上げ、彼女の頬に響くような平手打ちを食らわせた。

「この売女が——！」彼は激しく罵った。

夏野暖香は痛みで顔をそむけ、口の中に甘い血の味が広がり、鮮血が口から溢れ出した。

彼女は目を上げ、その男を睨みつけた。

その男は手を上げ、また一発、彼女の右頬に平手打ちを食らわせた。

「俺の姉はお前のような売女のせいで死んだんだ！夏野暖香、お前はすごく強いんだろう？得意だったんだろう？まさか、いつかお前が俺の手に落ちるとは思わなかっただろう！」

「あなたは一体誰なの？」夏野暖香は歯を食いしばって言った。「私はこれまで誰とも恨みを持ったことはないわ、あなたは何を言っているの！」

「忘れたのか？」刀傷の男は片方の口角を上げて笑い、目尻の刀傷も踊るように動き、醜く恐ろしかった。

「じゃあ思い出させてやる、俺は山下一郎、姉は山下婉……半年前、彼女は病院の屋上から飛び降りた、とても悲惨な死に方だった……」

夏野暖香はその言葉を聞いて、全身が激しく震えた。

山下婉……

彼は山下婉の弟だったのだ！

なるほど！

「誤解よ、私は彼女を殺そうなんて思ったことはないわ！」夏野暖香は急いで説明した。当時、山下婉の死を知ったとき、彼女も衝撃を受け、南条陽凌とさえ喧嘩をした。

しかし……半年経って、こんな形で報復されるとは思わなかった。

「違うと言い張るのか？」その男は彼女の襟をつかんだ。「俺の姉は昔から誇り高い性格だった。誰かに追い詰められなければ、どうして飛び降りるなんてことをするだろうか！当時、彼女はお前を害しようとしたが、結局お前を本当に傷つけることはなかった。なのにお前は南条陽凌の手下に彼女を追い詰めさせたんだ！」