第115章 私はあなたの彼女です

「あなたは誰?」

「私は……彼の友達です。」

「伊藤逸夫の彼女かい?」その老教授は尋ねた。

林薫織は少し躊躇してから、頷いた。

「ここは人が多くて話しづらい。私について来なさい。」老教授は彼女を教室の隣にある事務室に連れて行き、周りに誰もいないことを確認してから、ようやく口を開いた。「橋本君は大学から停職処分を受けたんだ。」

「どうして?彼は先週までT大学にいたのに?」

「今日の大学行政会議で急遽決まったことだ。」老教授は重々しく言った。

「彼は何か間違いを犯したのですか?なぜT大学は彼を解雇するのですか?」

「それについては話せないんだ。」老教授は一旦言葉を切り、また続けた。「お嬢さん、これだけは言っておくが、この件は橋本君の過失ではない。」

彼自身も残念に思っていた。こんなに優秀な若者を、大学がどうして簡単に停職にするのか。世も末だ!

林薫織はショックで立ち尽くした。伊藤逸夫の過失ではない?彼の過失でないなら、なぜT大学は彼を停職にするのか?

突然、彼女の頭に氷川泉が昨夜送ってきたメッセージが浮かんだ。彼は伊藤逸夫から離れるように言ったが、彼女はそれに反発していた。

もしかして、氷川泉が?この全ては、氷川泉と関係があるのではないか?

あの男はいつも自分に逆らう人間を好まない。そして彼が人を扱う手段は、常に素早く的確だ。この事件は彼のやり方にそっくりだった。

林薫織は自分がどうやって教学棟を出たのか覚えていなかった。教学棟を出るとすぐに、彼女は伊藤逸夫に電話をかけた。

「薫織?」

「どうして教えてくれなかったの?」

「何を教えなかったって?薫織、何があったんだ?」電話の向こうで、男の声は穏やかで、まるで何も起こっていないかのようだった。

林薫織は携帯を握る指に力を入れ、深く息を吸い込んでから言った。「今、T大学にいるの。私は……全部知ってしまった。伊藤逸夫、どうして私に嘘をついたの?」

電話の向こうは一瞬沈黙した。しばらくして、林薫織はようやく男の声を聞いた。「薫織、君は…怒っているのか?ごめん、嘘をつくべきじゃなかった。ただ君を心配させたくなかっただけなんだ。」

「心配させたくない?でも、私はあなたの彼女でしょう。こんな大きな問題が起きたのに、すぐに私に教えるべきじゃないの?」