夏芽礼奈は少し泳いだ後、喉が渇いてきたので、近くにいた林薫織に声をかけた。「薫織、ちょっと喉が渇いたから、飲み物を買いに行くけど、何か飲みたいものある?」
「なんでもいいよ」
「なんでもいいって一番困るんだよね」
「じゃあ...コーラを一缶お願い」
「わかった、ここで待っていてね、すぐ戻るから」
夏芽礼奈が離れた後、林薫織はプールの縁に腕をついて、景色を眺め続けた。日は沈んだものの、夕陽の名残がまだ残っていた。雲間から漏れる光が海面に降り注ぎ、まるで炎の塊が海を燃やしているかのようだった。
林薫織は心から感嘆した。自然の力は本当に情緒深く、何気なく一筆描いただけで、息をのむような風景を描き出すことができるのだ。
林薫織がプールサイドで静かに目の前の景色を楽しんでいると、空はだんだん暗くなってきた。背後で突然揺れる水の波が彼女の意識を引き戻し、彼女は笑顔で振り返った。
「戻ってきたの?」
しかし、次の瞬間、彼女の顔から笑顔が消え、驚きと警戒の表情に変わった。「なぜあなたが?」
「なぜって、私じゃいけないのか?」男は冷たい笑みを浮かべた。
林薫織が逃げようとした時、彼は簡単に彼女の逃げ道を塞ぎ、プールの壁と自分の裸の胸の間に彼女を閉じ込めた。
彼と林薫織はとても近く、お互いの体温を感じられるほどだった。その突然の身体接触に、林薫織は全身の毛が逆立った。
彼女はこのような距離が嫌いで、このような接触も恐れていた。それらは彼女に心を引き裂かれたあの夜を思い出させるが、彼女は歴史を繰り返したくなかった。
「氷川泉、離して!」林薫織は力を込めて彼を押し、指が男の熱い胸に触れると、素早く引っ込めた。氷川泉が彼女を放す気配がないのを見て、怒って言った。「離さないなら、人を呼ぶわよ!」
男の目に嘲笑の色が走り、恐れることなく言った。「林薫織、もっと大きな声で叫んでみろよ。誰かが来て助けてくれるか見てみたいものだ!」
林薫織はそんな脅しに屈するつもりはなく、声を張り上げて大声で叫んだ。「Help! Help! Help...」