林薫織は突然苦笑いを浮かべた。「あなたは本当に私の過去を気にしないの?」
「林薫織、言ったよね。君の過去がどうであれ、僕は全く気にしない。僕が気にするのは今の君だけだ、今の林薫織だけだ」
「ふふ、そう?あなたは私が以前結婚していたことも、風俗で働いていたことも、誰とベッドを共にしたかも気にしないかもしれない。でも、あなたの両親は?あなたの家族や友人は?彼らもあなたのように、私のすべてを受け入れてくれるの?」林薫織は一歩一歩後ずさりし、目を赤くして言った。「無理よ。この世のどの親も、自分の子供が清らかな女性と結婚することを望まないはずがない。この世のどの親も、将来の嫁の家柄が清らかであることを望まないはずがない」
そして彼女は、自分自身も、彼女の家庭環境も、人々が避けるに十分な理由があった。
藤原輝矢は口を開きかけたが、反論する力がなかった。林薫織は力なく微笑んだ。ほら、藤原輝矢自身もよく分かっているのだ。彼女の過去は彼らが乗り越えられない壁なのだと。
「藤原輝矢、これからは会わないほうがいいわ。まるで...まるで出会ったことがなかったかのように」林薫織は笑顔で背を向けたが、振り向いた瞬間に涙が頬を伝った。
彼女は自分が冷静でいられると思っていた。自分の心はもう灰のようになっていると思っていた。でも頬に流れる冷たい液体は何なのか。いつの間にか、彼女の心はこの男性に動かされていたのだ。ただ、彼女は自分のものではないこの感情を葬らなければならなかった。
彼女はどれほど時間が5年前に戻ることを望んだことか。あの頃、彼女はまだ市長の娘として高い地位にあった。あの頃、彼女は青春の真っ只中だった。もしあの時、彼女が藤原輝矢と出会っていたら、すべてが違っていたかもしれない。
しかし、この世界には「もし」はなく、ただ「結果」があるだけだ。結果として彼女は氷川泉を愛してしまった。結果として彼女は躊躇なく蛾が火に飛び込むように愛のない結婚に身を投じた。結果として彼女はこんなにも惨めになり、幸せを追求する最低限の権利さえ失ってしまった。
藤原輝矢は力なく林薫織の遠ざかる背中を見つめたが、彼女を引き留める言葉さえ見つからなかった。林薫織の言う通りだった。彼女の過去は彼らの間に横たわる最大の障害だった。