林の母が言うとおり、藤原輝矢は確かに彼女に心を寄せていた。しかし、彼がどれほど彼女を愛していても、二人の間の障害は取り除くことができなかった。
「お母さん、私と彼は合わないの」
「何が合うとか合わないとか?お母さんから見れば、あなたたちはこれ以上なく相性がいいわ」
「でも彼の家族は私たちが一緒になることに反対しているの。お母さん、あなたも知っているでしょう、結婚は二人だけの問題じゃない。もし結婚が両方の親の祝福を得られなければ、たとえ男女がどれほど愛し合っていても、幸せになるのは難しいわ」
これを聞いて、林の母は沈黙した。しばらくして、彼女はうなずいた。「そうね、相手の両親があなたを好きでなければ、嫁いでからも辛い思いをするでしょうね」
林薫織は母親を深く見つめ、彼女がこの件について二度と触れないだろうことを知った。本来なら安堵するはずなのに、心の中には何とも言えない感情が残っていた。
この恋は、あまりにも急に訪れ、あまりにも早く去ってしまった。心に残った痕跡は、想像していたほど簡単には消えなかった。
彼女は無力に苦笑したが、そのとき、看護師が扉を開けて入ってきた。
「林さん、外にあなたを探している方がいます」
「どなたですか?」
「相手は名乗りませんでした。男性で、とても背が高くてハンサムです」看護師は夢見るように言った。
林薫織の心臓が跳ねた。頭に最初に浮かんだのは藤原輝矢だった。本当に彼なのだろうか?
林薫織は藤原輝矢と対面する心の準備を整えていたが、来訪者は意外にも藤原哲男だった。
「病院は人が多く噂話も広がりやすいので、林さん、少しお話してもよろしいでしょうか?」男性は優雅な態度で、非常に礼儀正しく話したが、林薫織はその鋭い眼差しを無視できなかった。
「少しお話?」林薫織は軽く笑った。「藤原さんはまた私を何か『人里離れた』場所に連れて行くつもりではないでしょうね?」
男性は林薫織の言葉の皮肉を聞き取ったが、怒る様子もなく笑って言った。「前回は私の部下が無礼を働きました。林さんにはお詫び申し上げます。今回はそのようなことはありません」
藤原哲男の言う「ない」というのは、単に林薫織を山に連れ去らないという意味だけで、結局は彼女を地下駐車場に連れて行った。