第253章 取引(9)

浴室で30分もぐずぐずした後、林薫織はようやく服を着て、浴室から出てきた。

氷川泉を見た瞬間、彼女の足取りが一瞬止まった。彼がいつ部屋に入ってきたのか分からなかったが、そんなことを考える余裕はもはやなかった。

男は彼女に背を向け、一人で床から天井までの窓の前に立っていた。空気中には強い煙草の匂いが漂い、彼の横の灰皿にはすでに吸い殻が山積みになっていた。明らかに彼はしばらく前から部屋にいたようだった。

彼はいつから煙草を吸うようになったのだろう?

林薫織の記憶では、氷川泉という人物は異常なほど自制心が強く、煙草を吸わず、お酒さえもあまり飲まなかった。ただ接待の時だけ、たまに少し飲む程度だった。

男は彼女の気配を感じたようで、手にしていた煙草を消し、振り向いて彼女を見た。鋭い視線で彼女を頭からつま先まで見回し、唇の端に嘲笑うような笑みを浮かべた。

「そんな格好で私と寝るつもりか?」

男は林薫織の後ろにあるウォークインクローゼットを指さし、冷たく言った。「クローゼットにパジャマがある」

林薫織は自嘲気味に唇を引き締め、結局足を動かし、ゆっくりとウォークインクローゼットへ向かった。クローゼットの左側の区域はすべて女性服で、服は種類ごとに分けられており、その中の一区画はパジャマ専用になっていた。パジャマはすべて夏物で、秋冬物はなかった。

考えてみれば当然だ。部屋には床暖房が効いていて一年中春のようだから、外がどんなに寒くても、夜寝るときにはあまり厚着する必要はない。

林薫織はその中から適当にキャミソールのシルクのパジャマを選び、浴室に着替えに行こうとしたが、背後から男の冷たい声が聞こえてきた。「ここで着替えろ」

林薫織は突然足を止め、まるで動けなくなったかのように、その場に立ちすくんだ。

「服を着替えるのに隠す必要があるのか。それに、お前が服を着ていない姿はとっくに見ているだろう?」

林薫織は手の中のパジャマをきつく握りしめ、力が入りすぎて指が少し震えていた。氷川泉の言葉に、あの屈辱的な夜のことを思い出した。彼がどうしてそんなにも平然としていられるのだろうか?