第253章 取引(9)

浴室で30分もぐずぐずした後、林薫織はようやく服を着て、浴室から出てきた。

氷川泉を見た瞬間、彼女の足取りが一瞬止まった。彼がいつ部屋に入ってきたのか分からなかったが、そんなことを考える余裕はもはやなかった。

男は彼女に背を向け、一人で床から天井までの窓の前に立っていた。空気中には強い煙草の匂いが漂い、彼の横の灰皿にはすでに吸い殻が山積みになっていた。明らかに彼はしばらく前から部屋にいたようだった。

彼はいつから煙草を吸うようになったのだろう?

林薫織の記憶では、氷川泉という人物は異常なほど自制心が強く、煙草を吸わず、お酒さえもあまり飲まなかった。ただ接待の時だけ、たまに少し飲む程度だった。

男は彼女の気配を感じたようで、手にしていた煙草を消し、振り向いて彼女を見た。鋭い視線で彼女を頭からつま先まで見回し、唇の端に嘲笑うような笑みを浮かべた。