第287章 私が愛する人は氷川泉

林薫織は感情を抑え、自嘲気味に口元を歪め、一言一言はっきりと言った。「藤原輝矢、実は最初私があなたと一緒になると承諾したのは、あなたを好きだったというより、あなたに感動したからよ。結局のところ、この世界で、無条件に優しくしてくれる男性を拒む女性はいないわ。私も例外ではないわ。それに、当時の私の状況は、あなたも知っているでしょう。あの状況では、女性は簡単に人に心を動かされるものよ。でも私ははっきりわかっていた。それは愛ではない。私はあなたを愛していないわ」

「いや、嘘だ!薫織、君は嘘をついているんだろう!」藤原輝矢は林薫織の肩をきつく掴み、問い詰めた。

藤原輝矢の力は強く、林薫織は痛みに眉をひそめたが、動じることなく、相変わらず平然と言った。「藤原輝矢、私は嘘をついていないわ。もう嘘はつきたくないの。本当は、私も自分を一生騙せると思っていた。あなたを好きだと自分に嘘をつき続けられると。でも、ある人が私に気づかせてくれたの。感動は感動であって、愛とは混同できないということを」

「その人は誰だ?」

「あなたは知っているわ」林薫織は淡く微笑んだ。「きっと、あなたも予想がつくでしょう」

藤原輝矢は目を細めた。「氷川泉か?」

林薫織が強くうなずくのを見て、藤原輝矢は信じられないという顔で目を見開いた。「林薫織、氷川泉が以前どうやって君を扱ったか、忘れたのか?」

「どうして忘れられるわけがないでしょう?」林薫織は苦々しく笑った。「藤原輝矢、あなたは私が卑しいと思っているでしょう?でも仕方ないわ、私はこういう人間なの。たとえこんなに長い年月が経っても、氷川泉に会うと、この心は抑えきれずに彼のために鼓動するの。たとえ彼が私の家族を破滅させたとしても、私は卑しくも彼を愛し続けているわ!」

林薫織ははっきりとわかっていた。もし別の別れの理由を言ったら、藤原輝矢は絶対に信じないだろう。氷川泉のことだけが、彼女が藤原輝矢を好きではないと彼に信じさせることができる。結局、昔彼女が氷川泉のためにした狂気じみた行動を、藤原輝矢は多少知っているのだから。

そして事実は彼女の予想通り、藤原輝矢は確かに信じた。