彼は顔を上げて向かいのダンスフロアを見た。明滅する光の中で、男女が入り乱れて踊っていた。
藤原輝矢は唇の端に妖艶な笑みを浮かべ、ハイスツールから降りてよろめきながらダンスフロアへ向かった。そのとき、一人の大柄な人影が彼の視界を遮った。
藤原輝矢は酔っていたが、来た人物が誰か分かっていた。藤原哲男に向かって笑いかけ、「兄さん、どうしてここに?」
距離があっても、藤原哲男は藤原輝矢から漂う強烈な酒の匂いを嗅ぎ取り、思わず腹立たしげに言った。「見てみろ、今のお前はどんな姿だ!」
「どんな姿って?俺はいつもこんな感じだろ?」藤原輝矢は不真面目に答えた。「華やかな夜の世界、酒と金に溺れる生活、人生は短いんだから、楽しむべきだよ。これでいいじゃないか?」
藤原哲男が冷たい表情を浮かべているのを見て、藤原輝矢はふらつく足取りで近づき、手を伸ばして藤原哲男の顔を強く摘んだ。「そんなに真面目くさってどうしたんだよ。まるでじいさんの生まれ変わりみたいだぞ」
藤原哲男は体を少しずらして彼を避け、一気に彼の腕をつかんだ。「行くぞ、俺と一緒に帰る」
「嫌だ、まだ遊び足りないよ」藤原輝矢は力強く彼の手を振り払った。「前は俺が外で飲んでも気にしなかったじゃないか?なんで最近は俺の前にいつも現れるんだ?最近暇なの?うーん...それはよくない、全然よくない。本当に暇なら女でも探せよ。見てみろよ、三十過ぎてまともな彼女一人できたことないなんて、言ったら恥ずかしいぞ」
藤原哲男は唇を引き締めて藤原輝矢のとりとめのない話を聞いていたが、次第に忍耐が尽きてきた。後ろについてきた警備員に目配せすると、警備員は指示を受け取り、敬意を込めて頷いた。そして二言目には何も言わず、左右から藤原輝矢を抱え上げた。
藤原輝矢は武術の心得があっても、二人の特殊部隊員の相手ではなかった。ましてや彼はかなりの酒を飲んでいたので、すぐに警備員に車へと連れていかれた。
先ほど公共の場では、藤原哲男は藤原輝矢に対してまだ丁寧だったが、SUVに乗り込むと、状況は一変した。
「彼を起こせ」
「はい、長官!」
警備員のやり方は単純かつ乱暴だった。ミネラルウォーターのキャップを開け、藤原輝矢の襟元を引っ張り、冷たい水を彼の胸元に直接注いだ。今は春とはいえ、夜はやはり少し冷える。