第320章 氷川泉、私の母から離れてください

「兄さん、どうしてここに？」藤原輝矢はドアを開け、入り口に藤原哲男を見つけた。

「様子を見に来たんだ。」男は部屋に入ると、アパートが散らかり放題になっているのを見て眉をひそめ、重々しく言った。「家政婦を雇えばいいだろう。」

「雇ったけど、また俺が怒鳴って追い出しちゃったんだ。」藤原輝矢は肩をすくめた。

「部屋はこんなに広いんだから、誰かに掃除してもらわないと。」

「どうでもいいよ、どうせこのアパートを売るつもりだから。」

「ここを売るつもりなのか？」藤原哲男は彼をじっと見つめ、続けて言った。「家を売るつもりなら、実家に戻ってきて、両親と一緒に住んだらどうだ。」

「兄さん、勘弁してくれよ。両親の目の届くところで暮らしたら、うるさくて死んじゃうよ。」

「これは母さんの意向だ。お前が一人でこっちにいると、食事や生活のことを母さんが心配できない。帝都に戻るのも悪くない、家族がいれば何かと助かる。それに、母さんは先日帰ってきて、お前の相手を探し始めているようだ。そうなれば結局は帰ってこなければならなくなる。」

「相手は自分で見つけるよ。それは母上が心配することじゃないだろ？それに、兄さんの個人的な問題もまだ解決してないじゃないか。相手を探すなら、まず兄さんのために探すべきだよ。」

藤原哲男の端正な顔に笑みが浮かび、眉を上げて言った。「俺が逃げられると思うか？」

「それもそうだね。でも兄さん、本当に家の手配を受け入れるつもりなの？」

「俺も結婚適齢期だし、結婚の話が出るのは当然だろう。」

藤原輝矢は眉をひそめた。「相手がどんな顔をしていても、好きかどうかに関係なく、迎え入れるつもりなの？」

「好きかどうかなんて何の関係があるんだ？」藤原哲男の目には、結婚において愛情はあってもなくてもよいものだった。愛情のある結婚も必ずしも長続きするとは限らない。

人の心は最もコントロールしにくいもので、最初は死ぬほど愛し合っていても、数年後には心の愛を邪魔者のように思うこともあるのだ。

彼、藤原哲男の妻には、優しく大らかで、思いやりがあり、互いに敬意を持って接することができればそれでいい。

藤原輝矢は突然笑った。「そうだね、好きかどうかに何の違いがある？誰と結婚しても同じことだ。」