第378章 鳥も糞をしない場所

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しかし、そのとき、隣の車の窓からノックの音が聞こえてきた。藤原輝矢は無視しようと思ったが、そのノックは止まるどころか、しつこく続いた。

藤原輝矢は小さく呪いの言葉を吐きながら、ようやく林薫織の体から身を起こし、毛布を林薫織にかけ、自分の服を整えてから車を降りた。

それは周辺を巡回していた花農家の男だった。その花農家は藤原輝矢を上から下まで眺め、あまり友好的でない口調で言った。「夜中に車をここに停めて、こそこそと何をしているんだ?」

藤原輝矢はその花農家の詰問するような口調を聞いて、さらに腹が立った。この花農家は彼らを花泥棒と勘違いしているようだった。田舎者の目が節穴なのか、彼の車を見ればわかるだろう。こんな車に乗る人間が、こんな花や草に興味を持つわけがない。

彼は不機嫌に答えた。「車が故障したんだ!」

「車が故障?故障したなら電話して修理に来てもらえばいいじゃないか?」

「こんな鬼の住むような場所に電波が通じるわけないだろ!」

「何が電波がないだって、嘘つけ。ここはちゃんと電波が入るぞ、ほら、見てみろ」自分の言葉に説得力を持たせるため、花農家は自分の携帯電話を藤原輝矢の前に掲げた。

不思議なことに、その花農家の携帯電話には確かに電波が入っていた。藤原輝矢はポケットから自分の携帯を取り出すと、なんと電波は満タンだった。彼は怒りで笑ってしまった。これはどういうことだ?まさか幽霊の仕業か?

もし幽霊の仕業なら、もっと徹底的にやってくれればいいのに!

藤原輝矢は怒りを感じながらも、結局電話をかけて車の修理を頼んだ。花農家は藤原輝矢が本当に車の故障で停車していたことを確認すると、それ以上追及せず、謝罪して立ち去った。

車が修理され、すべてが落ち着いた後、藤原輝矢は車に戻ったが、林薫織はすでにきちんと服を着て、シートで眠っていた。彼は無奈に笑った。今夜はもうダメだな。

まあいい、これからの日は長い。

林薫織が熟睡しているのを見て、起こさないように、藤原輝矢は車をしばらくここに停めておき、彼女が目覚めてから発車することにした。

月明かりの下、林薫織の表情は言葉にできないほど穏やかだった。藤原輝矢は片手で頬杖をつき、彼女をじっと見つめ、ようやく「歳月静好」の意味を理解した。