404章 彼女はうつ病の傾向があるかもしれない

林薫織は無意識に下を見下ろした。男が彼女を抱えて既に十数段の階段を上っていた。彼女はもともと軽度の高所恐怖症があり、今上から下を見ると、思わずめまいを感じた。

しかし彼女はこの男の前で弱みを見せたくなかった。挑発的に言った。「いいわよ、私を投げ落としてみなさいよ。死んでもいい、あなたに触られるくらいなら！」

それを聞いて、男は突然目を鋭くし、上から彼女を数秒間見つめた後、急に嘲笑うように薄い唇を曲げた。「お前の体のどこが、俺に触られていない場所があるというんだ？」

男のその一言で、林薫織の心に押し込められていた屈辱がすべて呼び起こされた。恥辱と怒りで彼女は手を上げ、思い切り彼の頬を平手打ちした。

平手打ちの音は大きく、暁美さんをその場で固まらせた。彼女は心の中で思った。これで終わりだ、こんな時に、林さんはまだ虎の顔から髭を抜くような真似をするなんて！

手に火照るような痛みが伝わり、林薫織に先ほどの平手打ちがどれほど力強かったかを思い出させた。彼女は恐れることなく男の冷たい目を見つめ返した。男の墨黒の瞳の奥で嵐が渦巻いているようだった。

男の視線はあまりにも鋭く、顔は氷のように冷たく、彼女は次の瞬間に自分の首を折られるのではないかと疑わなかった。

林薫織は密かに思った。それもいいかもしれない。氷川泉に絞め殺されるほうが、こんな屈辱を受けながら生きるよりましだ。

しかし、彼女が待っていたことは起こらなかった。男の指の関節がきしむ音が聞こえても、彼は彼女に手を上げなかった。

二人はどれくらい対峙していたのか分からないが、男は最終的に視線をそらし、黙って彼女を二階に運んだ。主寝室はもう使えなかったので、氷川泉は彼女を近くの客室に連れて行き、暁美さんに二、三言指示を出してから書斎へ向かった。

暁美さんは男の指示通りに林薫織を落ち着かせ、客室を出て書斎の前を通りかかったとき、書斎のドアの前で氷川泉に出くわした。

男は指の間にタバコを挟み、煙が彼の指からゆっくりと立ち上り、彼のハンサムな顔に色気のある霧をかけていた。彼は客室の方向を見て、暁美さんに尋ねた。「彼女はどうだ？」

「林さんの足の怪我は包帯を巻きましたので、問題ないと思いますが、破傷風の予防接種を打ったほうがいいでしょう。」

「電話して、瀬戸さんに来てもらってくれ。」

「はい、旦那様！」