第412章 婚約を解消しましょうか？

その言葉を聞いて、禾木瑛香の背筋が凍りついた。彼女はハンドバッグをきつく握りしめ、力を入れすぎて指の血管が浮き出ていたが、振り返る勇気はなかった。振り返れば、氷川泉が残酷な決断を告げるのではないかと恐れていた。

しかし、どんなに逃げようとしても避けられないことがある。

まるで一世紀が過ぎたかのように感じられた後、背後から突然男の声が聞こえた。「瑛香、婚約を解消しよう？」

「婚約解消」という言葉を耳にした瞬間、禾木瑛香の心の中でずっと張り詰めていた糸が完全に切れた。振り返った時、彼女の顔はすでに涙でぐしゃぐしゃになっていた。

彼女は必死に顔の涙を拭い、無理に唇の端を引き上げ、震える唇で低く尋ねた。「泉、今の言葉は本気じゃないよね？私がどこか悪いことをして、あなたを怒らせたから、そんなことを言ったの？どこであなたを怒らせたのか教えて、直すわ、絶対に直すから！あっ、わかった、私が病気だからって嫌になったの？」

禾木瑛香は突然、氷川泉の腕をきつく掴んだ。「でも、私はこの何年もずっと薬を飲んで、病状はとてもよくコントロールされてるの。もう少しすれば、私の病気は完全に良くなるわ…」

しかし、男はその時突然彼女の言葉を遮った。「瑛香、この決断をしたのは、君の病気のせいではない。これは全て君のせいではなく、私自身の問題なんだ。」

「あなたの問題？」禾木瑛香の頬を涙が伝い落ちた。男がここまで言い切った以上、もう自分を欺くことはできなかった。突然、彼女は苦々しく笑った。「林薫織のせいなのね？林薫織のせいでしょう、違う？」

「彼女は関係ない。」

「どうして関係ないわけがあるの？泉、あなたは前はこんな風じゃなかった。電話に出る時も私をいい加減に扱ったりしなかったし、一緒にいる時も無関心じゃなかった。でも、林薫織が現れてから、全てが変わったわ！林薫織のどこがそんなにいいの？彼女のスタイルが良いから？それとも彼女の顔立ちがあなたの好みだから？泉、今の整形技術はとても発達してるわ。もしあなたが本当に望むなら、私だって林薫織の姿に変われる。彼女の顔の傷さえも、整形外科医に同じように作ってもらえるわ！そうしたら、あなたは彼女を好きなように私のことも好きになってくれる？」禾木瑛香は話しながら笑っていたが、涙は止まらずに流れ続けていた。