第455章 この世界は、本当に十分狂っている

「わかりました、また会いましょう」氷川泉は淡々と微笑んだ。

二人は明らかに宿敵同士で、かつては相手を死に追いやろうとさえ思ったことがあるのに、今では冷静に落ち着いて向き合い、笑いながら「また会いましょう」と言い合っている。

この世界は、本当に十分狂っている。

産婦人科を出て、林薫織はエレベーターに乗り、一階まで降りた。彼女の足取りはどんどん速くなり、ただこの場所から、藤原輝矢のいる場所から早く離れたいと思った。

彼女があまりに速く歩くので、氷川泉は彼女の体を心配し、思わず前に出て彼女の手を引いた。「林薫織、もう少しゆっくり歩いて」

彼の手が林薫織の手首に触れた瞬間、彼女はそれを激しく振り払った。「触らないで！」

実は、この数ヶ月の間に、彼女の心境は徐々に穏やかになっていた。しかし、藤原輝矢を見た途端、あの心を引き裂くような過去の記憶が再び蘇ってきたのだ。

彼女は本来なら愛する人と一緒にいられたはずだった。本来なら母親はこの世で元気に生きていられたはずだった。本来ならあと数ヶ月で父親は刑務所から出所できたはずだった。本来なら彼女の人生はやり直せたはずだった。しかし、これらすべてが氷川泉のせいで泡と消えてしまった。

林薫織は突然足を止め、氷川泉を睨みつけた。涙が制御できずに目から溢れ出た。「氷川泉、あなたは私を台無しにした、私のすべてを台無しにした、わかる？！」

彼女の涙は男の心を深く刺し、彼女の悲しみ、絶望、そして無力感がはっきりと顔に表れていた。男の指先は思わず震え、口を開いたが、自分を弁解する理由を見つけることができなかった。

彼女の言うことは正しかった。彼は確かに彼女を台無しにしたのだ。

「林薫織……」男は力なく腕を下げ、林薫織の顔をじっと見つめながら、低い声で言った。「ごめん……これからは、君と子供にちゃんと償うよ」

林の母と林の父の悲劇は取り返しがつかない。彼女と藤原輝矢の愛も修復できない。過去は変えられないが、彼にできることは未来を保証することだけだった。彼は自分の命をかけて林薫織と彼らの子供を愛することを誓った。

「子供……」林薫織は目を伏せ、わずかに膨らんだ自分のお腹を見つめた。涙が冷たい床に落ち、ただ言いようのない辛さを感じた。

彼女は恨みを忘れることができないが、この子を下ろす決心もつかなかった。