林薫織は墓地で長い間待っていたが、それでも林の父は現れなかった。彼女は、おそらく刑務所側が許可しなかったのだろうと思った。だから父は来られなかったのだ。
彼女は雨に濡れた母の遺影を見上げ、胸が痛んだ。母は父を一生愛し、迷いなく父に一生寄り添ってきた。それなのに、最後には、彼女の葬儀に父は最後のお別れもできなかった。
「林さん、暗くなってきました。帰りましょうか?」暁美さんは林薫織に傘を差し掛けながら、静かに勧めた。
林薫織はうなずいた。父は母の死を知り、大きなショックを受けているだろう。今や彼女が家族の大黒柱なのだ。どれほど心が痛んでも、倒れるわけにはいかない。
林薫織がゆっくりと振り向くのを見て、暁美さんはようやく長いため息をついた。そして少し離れたところで黙って立っていた氷川泉も安堵した。彼は林薫織がここに頑固に立ち続け、去ろうとしないのではないかと本当に心配していた。
墓地を離れた林薫織は半坂別荘には戻らず、セイント病院へ向かった。母の病室にはまだ遺品がいくつか残っていた。氷川泉は林薫織と一緒に行こうとしたが、林薫織にきっぱりと拒否された。
「私の母の最後の安らぎまで邪魔されたくない」
林の母は生前、氷川泉を骨の髄まで憎んでいた。林薫織は当然、氷川泉が母の病室に一歩でも足を踏み入れることを許さなかった。林薫織は男が終始暗い顔をしているのを見て、怒り出すのではないかと思ったが、彼は何もせず、ただ贺集に二言三言指示を出しただけで去っていった。
贺集はこれまで氷川泉がある女性にこれほど寛容な態度を取るのを見たことがなかった。禾木さんでさえ例外ではなかった。氷川泉が暗い表情で去っていくのを見て、贺集は思わず頭を振った。
なぜか、彼はこの冷たい男に同情を覚えた。
贺集は車で林薫織と暁美さんを病院まで送り、その後車を地下駐車場に入れた。彼は本来、林薫織たちと一緒に上がるつもりだった。何か重いものがあれば、手伝うこともできると思ったからだ。
「大丈夫です。母の遺品はそれほど多くないから、私と暁美さんで十分です」林薫織は淡々と言った。
そのため、贺集はあきらめるしかなかった。
実際、林薫織は贺集に嘘をついたわけではなかった。林の母の遺品は確かに多くなく、服と必要な洗面用具以外には何もなかった。