松本一郎はその地下駐車場に入ってきた長いリンカーンを見つめ、目を銅の鈴よりも大きく見開いた。彼は途方に暮れて助手席の小島夕奈を横目で見た。
「まずい、社長がなぜ突然戻ってきたんだ、どうすればいい?」
小島夕奈はすでに怖くて頭が真っ白になっていて、どうすればいいなんてわかるはずがなかった。
松本一郎は心の動揺を抑え、落ち着いた様子で窓を下げ、笑顔で向かい側の運転手に挨拶をした。しかし彼の視線は前の運転手を通り越して、後部座席に落ちた。
彼の心臓はドキッとした。やはり大社長本人が戻ってきたのだ。
向かい側の運転手は無表情で松本一郎を一瞥し、その後冷たく視線を外した。彼はこちら側の異変に気づいていなかったようで、ただスピードを緩め、車をすれ違わせようとしていた。
二台の車がすれ違った瞬間、松本一郎の宙ぶらりんだった心はようやく地に足がついた。小島夕奈はさらに大げさに自分の胸をポンポンと叩いた。よかった、大社長は林薫織に気づかなかった。
しかし、彼らの喜びは早すぎたようだ。
車体がすれ違った瞬間、長いリンカーンの中のジャーマン・シェパードが突然激しく吠え始めた。突然の犬の鳴き声に、後部座席に座っていた男性の目の色がわずかに変わった。
男性はセクシーな薄い唇を軽く開き、深みのある冷たい声が車内に響いた。「彼らを止めろ!」
「はい、社長」と言って、運転手はすぐに入口の警備員に電話をかけ、「松本一郎の車を止めろ」と指示した。
松本一郎たちは今回はごまかせると思っていたが、駐車場を出て、正門で警備員に止められてしまった。
松本一郎は窓を下げ、不満そうに言った。「何か間違いじゃないのか、なぜ私の車を止める?」
「申し訳ありません、松本先生、社長の指示です」
「父さん?」松本一郎はすぐに不吉な予感がした。そして事態は彼の予想通り、彼らに有利な方向には進まなかった。
いつの間にか、先ほど駐車場に入ったはずの長いリンカーンがバックして出てきて、彼らの車の後ろに停まった。松本一郎と小島夕奈がまだ何が起きているのか理解する前に、後部座席のドアが突然開き、そこから凶暴なジャーマン・シェパードが飛び出してきた。