第471章 私を殺さない理由をくれ

男は林薫織が気を散らしている隙に、不意に林薫織の手首を掴んだ。林薫織は手首が一瞬しびれるのを感じ、次の瞬間には手の中の簪が地面に落ちていた。

唯一の武器と頼みを失い、すぐに林薫織は男のボディガードに捕まり、地面にしっかりと押さえつけられた。林薫織はようやく気づいた。男が先ほど自分と話していたのは、時間を稼ぎ、チャンスを探っていただけだったのだ。

相手は明らかにこの分野で経験豊富だった。彼女のような素人が彼の相手になるはずがなかった。

結局、彼女がさっきやったことはすべて無駄な抵抗に過ぎなかった。林薫織は力なく頭を垂れ、自分がこの後どうなるかではなく、松本一郎と小島夕奈のことが心配でならなかった。

彼らを巻き込んでしまったのは自分だ。

ボディガードは林薫織の体に傷があるかどうかなど気にせず、手に強い力を込めていた。先ほど男と対峙していた時は、傷の痛みをそれほど感じなかったが、今は死ぬほど痛かった。