しばらくアメリカに帰れず、T市には中村旭がいるので、高橋詩織は一人でT市に残り、食べては寝るだけの毎日で、本当に退屈で、四肢が寝たきりで退化しそうな気分だった。彼女がこの退屈な時間をどう過ごそうかと考えていたところ、レーマンから中村旭から電話がかかってきた。
「何ですって?氷川財団がレーマンと提携したいって?」高橋詩織は驚いて言った。
「そうなんだ。しかも提示された条件がとても魅力的で、断りたくても断れないほどだよ」
「どんなに魅力的な条件でも、私は興味ないわ」高橋詩織は氷川泉という人物に良い印象を持っていなかった。彼女から見れば、氷川泉のような義父や枕を共にする人さえも計算に入れる小人と提携すれば、最終的には骨も残さず食われてしまうだろう。
「詩織、まず私の話を最後まで聞いてよ。話を聞いてから断るのも遅くないでしょ。氷川財団が提示した条件はこうだ。私たち二社が共同でゲームソフトを開発し、ソフトの開発が成功したら、氷川財団がプロモーションを担当する。その後の利益は四対六で分ける」
「彼らが六で、私たちが四?」
「違う、私たちが六で、彼らが四。だから条件が魅力的だって言ったんだ。氷川財団の研究開発部はかなり優秀で、単独で研究開発をしても、長期的なソフトを開発するのは問題ないはずだ。さらに氷川財団は大企業だから、後のプロモーションも確実に効果的だろう。この提携案は、どう見ても私たちが大きく得をする。詩織、本当にこの素晴らしい稼ぎのチャンスを逃すの?」
「あなたはこの中に罠があるとは思わないの?」高橋詩織は疑わしげに尋ねた。
「そこまでじゃないでしょ?氷川財団も業界のトップ企業なんだから、私たちのような小さな会社と争う必要もないし、小さな会社に卑劣な手段を使う必要もないはずだよ」
「それはどうかしら」高橋詩織はまだ安心できなかった。世の中にそんな良い話があるだろうか。氷川財団がそんなに寛大で、大きな月餅を独り占めせず、わざわざレーマンと分け合おうとするなんて?
「詩織、安心してよ。氷川財団の内部の人が言うには、今回氷川財団は本当にレーマンと提携したいんだって」
中村旭については、高橋詩織は多少なりとも理解していた。この男は普段は不真面目そうに見えるが、仕事となると非常に信頼できる。彼がそんなに自信満々に言うなら、この件は十中八九問題ないのだろう。