第496章 私から離れて

一時間前、キッチンにて。

小島夕奈は目の前の小さな薬包を見つめ、困った顔で言った。「お婆様、こんなことをするのはよくないのでは?」

「何がよくないことがあるの?私の孫の性格を考えれば、この薬を汁に入れなければ、私がこの老い骨で死ぬまで、ひ孫の顔も見られないでしょう」

「でも、高橋詩織と社長の間には何も……」

「でもも何もないわ。私の言った通りにすればいいの。他のことは全て私が責任を取るから。私の孫は私たちに何もしないわ」

小島夕奈の心中は苦しかった。確かに社長はお婆様に何もしないだろうが、彼女に対しては分からない。彼女はまだ何年も生きて、好きな人と恋愛したいと思っていた。

「お婆様、こういう薬は、通常副作用があって、飲むと体に良くないのでは」

「この薬は有名な漢方医から特別に頼んだもので、副作用はないから心配しないで」

小島夕奈は舌を打った。確かに前回、社長が老漢方医をお婆様の診察のために呼んだことがあったが、それはもう数ヶ月前のことだ。まさかお婆様は早くから計画していたのか?

この房原家の家長である祖母は本当に並大抵ではない。もう八十代なのに、その頭の回転は若者よりも速い。

はぁ……小島夕奈はどうすることもできず、老婦人の指示通りに汁に薬を加えるしかなかった。

スープを掻き混ぜながら、罪悪感が湧き上がってきた。小島夕奈は心の中で祈るしかなかった。高橋詩織よ、高橋詩織、あなたは絶対に持ちこたえてね。大社長があなたを抑えられなくても、あまり乱暴にならないように。

高橋詩織は朝あまり食べておらず、昼も一粒も口にしていなかったため、わずか10分ほどで食卓の料理を平らげてしまった。

食事を終えて満腹になると、彼女はようやく後ろにいる男性のことを思い出した。彼女は箸を置き、房原城治をちらりと見て、彼が食べたかどうか尋ねようとしたが、考え直した。食卓には残り物しかなく、房原城治は彼女を嫌っているのだから、聞いても無駄だろう。むしろ男の冷たい視線を招くだけかもしれない。

そう考えると、高橋詩織はあえて質問せず、椅子に斜めに寄りかかり、じっとしていた。

何もすることがないと、高橋詩織はこれからの時間のことを心配し始めた。この長い夜、ずっとここに座っているわけにはいかないだろう?