第512章 一人を処理してくれ

高橋詩織をレーマンに送った後、氷川泉は会社に行かず、東川秘書に電話をかけ、腕が立ち信頼できる人を二人見つけて、高橋詩織の身の安全を24時間体制で守るよう依頼した。

氷川泉がこうしたのには、もちろん理由があった。高橋詩織はT市で身寄りがなく、多少の護身術を心得ているとはいえ、やはり力不足で、昨夜のような事態に遭遇すれば、不利な立場に立たされることは避けられない。

昨夜のことを思い出し、氷川泉の表情が一瞬で冷たくなった。昨夜、もし藤田逸真が偶然出手していなければ、高橋詩織はとっくに……

恐ろしい結末を想像し、氷川泉の瞳に殺意が宿った。彼は携帯を手に取り、藤田逸真に電話をかけた。「逸真、ある人物の処理を頼む」

......

東川秘書の仕事の効率は折り紙付きで、わずか数分で氷川泉の指示を完了させ、1時間後には、彼が手配した人物が高橋詩織の写真を持ってレーマンのオフィスビルの下に現れていた。

彼らはレーマンビルの下であまり長く待つことなく、高橋詩織が一人でビルから出てくるのを目撃した。彼女は電話を手に持ち、誰かと通話しているようだった。そして約30分後、彼らは高橋詩織が黒いリンカーンに乗り込むのを見た。

24時間保護という任務なので、彼らは当然後をつけたが、黒いリンカーンは非常に警戒心が強く、あるカーブを曲がった時に彼らを振り切ることに成功した。幸い、リンカーンを追跡している間に、彼らは事前にナンバープレートを撮影しており、そのナンバーを氷川泉に送信した。

すぐに、氷川泉はそのナンバープレートの所有者が房原城治であることを突き止めた。この結果に、氷川泉は非常に驚いた。高橋詩織がなぜ房原城治という男と関わりを持っているのか、どうしても理解できなかった。

房原城治という人物は、控えめな性格で、通常は公の場にあまり姿を現さないため、氷川泉は彼についてあまり詳しく知らなかった。ただ、彼が裏社会で侮れない実力を持っていることだけは知っていたが、それ以外のことについてはほとんど知識がなかった。

書斎で、氷川泉は社長椅子に斜めにもたれかかっていた。一見リラックスしているように見えたが、男の表情は極めて不機嫌だった。そしてこれはすべて、東川秘書が先ほど言った一言のせいだった。

今に至るまで、高橋詩織は自分のアパートに戻っていない。