第563章 去る？

林薫織は痛みを感じながら目を閉じた。これでいい、これでいい。彼女がまだ迷っているうちに、天は先に彼女の代わりに決断を下していた。

この子は、この世に生まれてくるべきではなかったのだ。

VIP病室の外で、房原城治はずっとそこで待機していたが、中には入らなかった。

彼はずっと林薫織と距離を置いていれば、彼女は平穏に過ごせると思っていたが、今日のような事態が起こるとは思いもよらなかった。

もし自分がたまたまT市にいなかったら、もし緊急の時にプールに駆けつけていなかったら、結果はどうなっていたか、考えるのも恐ろしかった。

彼は思った。おそらく自分が離れることは保護ではなく、むしろ林薫織を自分の側に置いておく方が彼女にとって安全だったのかもしれない。

そして、房原城治は決断を下した。

⋯⋯

小さな手術だったため、林薫織は病院で二日間休養した後、退院できることになった。

プールから病院まで、この二日間、房原城治は一歩も離れず林薫織の側にいた。

房原城治がどれほど忙しい人か、林薫織は以前から知っていた。それなのに今回、彼女のためにこれほど多くの時間を費やしたことに、林薫織は非常に驚き、その驚きの中に少しの不安も感じていた。

房原城治が彼女を家まで送るつもりのようだと見て取った林薫織は、ついに我慢できずに口を開いた。「房原さん、私はタクシーで帰りますから、とても便利ですし、房原さんに迷惑をかけたくありません。」

房原城治は目を伏せて彼女を一瞥し、そして淡々と言った。「迷惑ではない。道順だ。」

道順？

林薫織の記憶では、彼女のアパートと房原城治の山奥の別荘は道順ではなかったはずだ。

彼女が反論しようとした瞬間、視線が突然固まり、窓の外の遠くを一瞬も離さずに見つめた。

そこには黒い車が停まっていた。その目立つエンブレムとナンバープレートは、無視しようとしても難しく、林薫織はもちろんこの車の持ち主が誰かを知っていた。

房原城治は林薫織の異変に気づき、彼女の視線の先を見た。眉をわずかに寄せた。

彼は冷たく視線を戻し、林薫織に向き直って、沈んだ声で言った。「一昨日から、彼はそこにいた。」

房原城治はその「彼」が誰なのかを明確に言わなかったが、林薫織は誰を指しているのかを知っていた。

彼はなぜこんなことをするのだろう？