第603章 お前は私の愛を利用しているだけだ

林薫織は房原城治の顔色があまり良くないのを見て、少し心配になったが、それでも強引にドアを開けた。

「あなた……小島紗月があなたを送り返したんじゃなかったの？どうして真夜中に、私のところに来たの？」林薫織は言葉を詰まらせながら言った。

彼女の言葉が終わるや否や、男に肩をがっしりと掴まれ、壁に向かって強く押しつけられた。

背中が壁に激しくぶつかり、林薫織は痛みで呻いたが、頭上から男の冷たい声が彼女に容赦なく降り注いだ。

「林薫織、まだ知らないふりをするつもりか？」

「私……私は何を言っているのか分からないわ」

「分からない？」房原城治は冷笑した。「今夜のことはお前と小島紗月が計画したことじゃないのか？」

男がそこまではっきり言うと、林薫織はもはや知らないふりができなくなった。彼女は罪悪感で頭を垂れ、小さな声で「ごめんなさい」と言った。

林薫織の一言の謝罪で男の推測は完全に証明された。車で来る途中、彼はまだ最後の希望を持っていた。このことは小島紗月一人の計画で、林薫織は関係ないのではないかという希望だった。しかし、林薫織が実際に関わっていたとは思いもよらなかった。

「お前は他人と一緒になって俺を陥れたのか？」男は冷たく彼女を見つめ、瞳の奥には怒りだけでなく、痛みもあった。

実際、房原城治を怒らせたのは林薫織が彼を陥れたことではなく、彼女が躊躇なく彼を別の女性に押しやったことだった。

「なぜそんなことをした？」

肩に感じる男の力は驚くほど強かった。林薫織の記憶の中で、彼はいつも冷静で自制心があり、今日のように怒ったことはなかった。

この状況で真実を話すことが火に油を注ぐようなものだと分かっていても、林薫織は勇気を振り絞って口を開いた。「私はあなたと結婚したくなかったから……」

林薫織の言葉が口から出るや否や、完全な文を言い終える前に、突然の風のような動きがあり、男の鉄のような拳が彼女に向かって直接飛んできた。

房原城治は武術の心得があり、腕前は一流だった。林薫織は想像できた、この拳が当たれば、死なないまでも重傷は免れないだろうと。

しかし、林薫織は避けなかった。今回の小島紗月との共謀は確かに彼女の過ちだった。この一撃は当然の報いだと思った。

しかし、激しい痛みは訪れなかった。林薫織がゆっくりと目を開けると、冷たい表情の顔が目に入った。