第24章 女の三滴の涙

橋本燃とボディーガードがエレベーターを待っている間、ボディーガードは不思議そうに尋ねた。「社長、あなたは長年鍼を打ってきて、誰一人として痛いと言う人はいなかった。みんなあなたの鍼は体中がすっきりすると言うのに、どうして松本さんには刀山を登り、火の海を渡るような痛みだと言ったのですか?」

「女の三滴の涙は、あなたが気を失うほど演技するものだ。彼らは一人が演技好きで、一人が甘やかすのが好きなら、私が口を開いて暴露する必要はない。『十の寺を壊しても、一組の縁談を壊すな』という古い言葉を知らないのか!」橋本燃はそう言いながらエレベーターに入り、ボディーガードもすぐに後に続いた。

角から出てきた温井時雄は、閉まったエレベーターのドアを見つめ、複雑な表情を浮かべていた。

橋本燃がエレベーターを出ると、正面玄関で背が低く、黒くて痩せた中年男性が、背の高い太った、お腹が大きく膨らんだ妊婦を支えながら、苦労して歩いて入ってくるのが見えた。

妊婦のお腹の形から、橋本燃は一目で彼女が双子を妊娠していること、そして状況が楽観視できないことを知った。

「先生、妻が産むんです、早く助けて...」

男性の言葉が終わらないうちに、女性の体が突然痙攣し、前に倒れ始めた。

妊婦がお腹から地面に倒れそうになったとき、橋本燃は稲妻のような速さで駆け寄り、あと数センチで床に倒れるところだった妊婦を抱きとめた。

妊婦は全身が震えるだけでなく、すぐに口から泡を吹き始め、四肢は鉄のように硬直していた。橋本燃は一目で妊婦がてんかん発作を起こしていることを見抜いた。

てんかん発作はそれだけでも危険なのに、双子を妊娠し、羊水が破れ、出産が迫っている妊婦にとっては、危険中の危険だった。

妊婦が自分の舌を噛み切らないように、橋本燃はすぐに手で妊婦の口を開け、ボディーガードが渡してきた口腔用バイトブロックを入れようとしたとき、発作中の妊婦に人差し指を強く噛まれ、たちまち血が流れ出した。

橋本燃は指が切れるような痛みを無視し、すぐに妊婦の救命に取りかかった。

このとき、病院の医師たちも駆けつけ、妊婦をベッドに乗せて手術室に運ぼうとした。