「どうせ私の評判はもう十分悪いんだから、他人がどう思おうと気にしないわ。彼女が私の底線を越えない限り、他人が何か言っても、病気から回復したばかりの患者と争うつもりはないわ」橋本燃はケーキを食べながら無頓着に言った。
「いい大人なのに、まだ子供みたいに口の周りをクリームだらけにして」高橋淮陽はそう言いながら手を伸ばして橋本燃の口角のクリームを拭った。
「拭かなくていいわ、自分でできるから」橋本燃は頭を振って拒否した。
「ダメだ、僕が拭いてあげる。動かないで、すぐ終わるから」
高橋淮陽の大きな体が橋本燃の小柄な体を遮り、温井時雄の角度から見ると、高橋淮陽が橋本燃の顔を両手で包み、キスしているように見え、橋本燃もそれに応えているかのようだった。
皆の前で、あんなにも遠慮なくキスする様子に、温井時雄の心は怒りで燃え上がり、ダンスのステップがリズムを崩し、松本晴子の尖った細いハイヒールを踏んでしまった。
「あっ...」つま先が踏み潰されるような激痛に、松本晴子は思わず苦痛の悲鳴を上げた。
「晴子、ごめん、本当にごめん」
松本晴子の苦痛に満ちた青白い顔色を見て、温井時雄は急いで申し訳なさそうに謝った。
あの女のせいで晴子を傷つけてしまうなんて、本当に最悪だ!
「誰だ、そんなに大胆に私の最愛の姉を踏みつけるとは?」低く不機嫌な男性の声が遠くから聞こえてきた。
皆が声の方を見ると、ワインレッドのスーツを着た、身長約185センチ、整った顔立ちで、松本晴子と七分通り似ている男性が歩いてきた。
栗色の前髪が目尻まで伸び、もともと細長い目をより冷たく魅惑的に見せ、格好良さの中に少し女性的な美しさを混ぜ合わせていた。
漫画に出てくる善悪の境界を行き来する、不良と柔らかさを兼ね備えた美男子キャラクターのようだった。
田中雪満がこの数日間ずっと心待ちにしていた宝物、松本羽源が帰ってきたのだ。
橋本燃は松本羽源の顔を観察した。数年ぶりに会うと、ますます少女心をくすぐる魅力が増していた。
顔立ちは確かに素晴らしいが、残念ながら心は人間のものではない。
「羽源、仕事が忙しくて数日後に帰ってくると言ったじゃない?どうして今日帰ってきたの?」松本晴子は少女のように興奮した表情で松本羽源の前に走り寄り、彼の胸に飛び込んだ。