沢田慕人と夕食を済ませて帰宅した橋本燃は、シャワーを浴びた後、寝室のパソコンデスクに座ってHOTプロジェクトの企画資料を書いていると、背後からドンドンとノックの音が聞こえた。
「どうぞ!」橋本燃はそっけなく応じた。
ドアが開き、頬を赤らめ、足取りがやや不安定な松本晴子が酒の匂いを漂わせながら入ってきた。
「随分早く帰ってきたじゃない、お風呂まで済ませて。HOTプロジェクトがあるからって、他のプロジェクトを開発しなくていいと思ってるの?そんなんじゃいずれ私に会社を追い出されるわよ」松本晴子は挑発的な目で笑いながら言った。
「今日は大きなプロジェクトを獲得したみたいだね、私の部屋に威張りに来たのか」橋本燃は軽蔑したように笑って言った。
「今日、会社に5億円のプロジェクトを契約したのよ、5億円よ!」松本晴子は手で5の字を作りながら言った。「それなのにあなたのHOTプロジェクトは会社に1円も稼がせず、むしろ会社がお金を出さなきゃいけないのよ」
HOTプロジェクトは確かに今は利益を生んでいないが、このプロジェクトは松本グループのブランドを国際的に知らしめ、海外の消費者に見てもらうためのもので、その目に見えない価値は計り知れないものだった。
「会社はバカじゃない、HOTプロジェクトが利益を生まなければ、会社の幹部も承認しなかっただろう。たかが5億の契約を取ったところで、自慢することじゃないよ」橋本燃は冷笑した。
「5億がたかだか?橋本燃、あなたはそんなにお金持ちなの?」松本晴子は軽蔑的な目で橋本燃を見た。
「あなたよりは裕福よ!」
「ハハハ!」松本晴子は世界で最も面白い冗談を聞いたかのように笑った。「私より裕福?夢でも見てるの?私はすぐに時雄と結婚するわ、そうしたら私は数兆円の資産を持つ温井夫人になるのよ。あなたが私とお金持ち比べ?」
「温井グループの数兆円の評価額があなたの手にどれだけ入るかはさておき、あなたが温井夫人になれるかどうかも別問題だわ!」橋本燃はパソコンの資料から目を離さずに言った。
「あなたみたいな人が時雄を奪えると思ってるの?あなたは3年間温井夫人だったのに時雄の私への愛を奪えなかったわ。今、私は目覚めたの、あなたがこれから時雄を私から奪うなんて絶対に不可能よ」
温井時雄の彼女への愛については、松本晴子は100%自信を持っていた。