第86章 殺機四伏のレース

皆が橋本燃のために冷や汗をかいている時、橋本燃の後ろに座っていた沢田慕人が突然右側から衝突してきたバイクレーサーに向かって飛びかかり、二人は車と共に十数メートルの高さの斜面を転がり落ちた。

沢田慕人のこの行動により、橋本燃は右に避ける機会を得た。橋本燃は斜面で滑って転倒しそうになったバイクを素早く安定させ、斜面を数十メートル下った後、無事に停止した。

橋本燃は急いでバイクを方向転換し、沢田慕人の前まで走った。

沢田慕人と彼が抱きかかえたレーサーの足は重いバイクに押さえつけられていた。沢田慕人はレーサーの上にいて、レーサーの頭からは真っ赤な血が流れ、目を閉じて顔色は青白く、明らかに気を失っていた。

橋本燃はバイクを静かに移動させ、沢田慕人が怪我した足を動かせるようにした。

「大丈夫か?」

「大丈夫だ、足に少し擦り傷を負っただけだ!」

「じゃあ続けるか?」

「もちろん、ここで諦めるのは惜しすぎる!」

橋本燃が沢田慕人を助け起こすと、沢田慕人は立ち上がった瞬間、足に骨まで染みる痛みを感じた。

沢田慕人の足は骨折していて、単なる擦り傷ではなかった。

しかし彼は痛みの表情を一切見せないよう必死に耐えていた。

橋本燃は沢田慕人の硬直した体から、彼の怪我が軽くないことを知った。

しかし彼女はこのチャンピオンシップを望んでいたので、最後まで共に戦うことにした。

二人は一緒にバイクに乗り、再び75度の斜面に挑んだ。

邪魔する者はなく、橋本燃は二十メートルの高さの75度斜面を順調に下り、意外にも藤原逸賢が下で待っているのを見た。

「なぜ行かなかったの?」

橋本燃は前方で自分にぶつかってきた二人のレーサーが関門を突破しようとしているのを見て、目に冷たい殺気が閃いた。

「今年はみんなお金のために命を顧みない。いとこの兄として、お前を守る責任と義務がある」

いつもふざけている藤原逸賢が珍しく真剣な表情で、心配そうに橋本燃を見た。「大丈夫か?」

「いとこの気遣いありがとう。でも私に好意を示しても、チャンピオントロフィーは実力次第よ」橋本燃はそう言ってバイクを発進させ、素早く前進した。

この関門はS字極限カーブだった。