「時雄……時雄……橋本燃はジョイ医師なの?そんなはず……はずがない?」
藤堂健太は心が砕け散るような感覚を覚えた。
彼が崇拝し、妻にしたいとさえ思っていたジョイが、一転して親友の元妻になっていたのだ。
橋本燃と温井時雄はすでに離婚しているので、彼には追いかける権利があるが、温井時雄のことを考えると、やはり気まずく感じてしまう。
「藤堂医師も信じられないと思いますよね。昨日、私が九州ホテルの入り口で事故に遭った時、時雄はすぐに私を病院に連れて行かず、
上の階に橋本燃を探しに連れて行ったんです。そこで初めて、燃が有名なジョイ医師だということを知りました」松本晴子の声にも驚きが満ちていた。
「時雄が直接言ったのか?」
「はい!」
藤堂健太の心はさらに激しく砕け散った。
温井時雄が直接言ったのなら、橋本燃は間違いなくジョイだ。
温井時雄はいつ橋本燃がジョイだと知ったのだろう?
家族の集まりの日、彼が温井時雄の前で30年間初めて心が動いたのはジョイのためで、ジョイを妻にしたいと断言した時の、炭のように黒い顔色を思い出し、藤堂健太はこの友情はもう続けられないと感じた。
……
九州ホテルの入り口で、橋本燃は約束通り現れた。
車から降りて数歩歩いたところで、後ろから温かみのある声が聞こえた。
「橋本燃!」
橋本燃が振り返ると、グレーグリーンのカジュアルウェアを着た沢田慕人が車から降りてくるのが見えた。
「沢田社長、どうしてここに?」
沢田慕人はローズゴールドの眼鏡をかけた橋本燃を見て、目に驚きの色を浮かべながら、玉のように温かい声で言った。「君一人で王子に付き添うと疲れるだろうと思って。私も安城の景色についてはある程度知っているから、一緒にガイドをしようと思って」
「王子があなたという電球を見て不機嫌になるのが心配です」
「その通りだ。私と燃が親睦を深めようとしているのに、間に入られては眩しすぎる。沢田社長の好意は心から感謝するが、今度ユダ国に行く時に、沢田社長をユダ国の風景鑑賞に連れて行こう!」ホテルから低く磁性のある声が聞こえてきた。
橋本燃が振り返ると、白いスポーツウェアを着た加登王子が見え、その後ろには黒いスーツを着てサングラスをかけた男女4人が続いていた。