「私はここに動画があります。当時、被害者の顔にケーキがついているのを見て、面白いと思って撮影しました」と、ある男性がスマートフォンを掲げて言った。
「その動画を見せてください」と山崎隊長が言った。
男性はスマートフォンを山崎隊長の前に差し出した。山崎隊長は動画の中で、橋本燃が伊藤千恵を支えて部屋に入るのを見た。
「山崎隊長、これでわかったでしょう?橋本燃が残酷に千恵を殺したんです。彼女を必ず逮捕してください。彼女の犯行手段はあまりにも残忍で、銃殺すべきです」と中村暁歓は怒りの声で言った。
「暁歓、興奮しないで。一つの動画だけでは何も証明できないわ。私は燃が千恵を殺害したとは思わない。彼女は沢田家の崩壊という出来事を経験したばかりで、やっと無事に抜け出したのに、出てきた翌日に人を殺すなんてことがあるでしょうか?
燃は有名なジョイ医師よ。彼女は心優しく、数え切れないほどの病に苦しむ人々に新たな命を与えてきた。私は燃が殺人犯であるはずがないと信じています」
松本晴子は正義感あふれる様子で橋本燃を擁護しているように見えたが、その言葉は人々に様々な想像をさせるものだった。
「やっと無事に抜け出した」という言葉は、沢田家の崩壊が彼女、橋本燃の仕業だと誤解させるものだった。
公の場で彼女がジョイ医師であることを暴露したのは、彼女が伊藤千恵を音もなく殺害する手段を持っていると人々に信じさせるためだった。
「安城中の誰もが、沢田家の崩壊が橋本燃の仕業だと知っているわ。そうでなければ、勢いのあった沢田家が、早くでもなく遅くでもなく、ちょうどこのタイミングで問題が起きるなんてことがあるの?
橋本燃がジョイ医師として現れる時はいつも完全武装して、誰にも彼女がジョイ医師だとわからないようにしている。それは彼女が人に見られたくない行為の隠れ蓑にしているだけじゃないの?
彼女は外国の製薬会社の手先で、わざと沢田慕人に近づき、沢田製薬を崩壊させて、彼女のバックにいるスポンサーがより多くの薬を売れるようにしているのよ」と中村暁歓は攻撃的に言った。