温井時雄は慌てて足を引っ込め、厳しい口調で言った。「資料を整理してほしいなら、温井グループに出社して私の仕事をやってくれ。そうすれば君の頼みを聞いてやる」
「兄さん、頼むよ!そんな無理言わないでくれよ!」温井時潤は言いながら地面に寝転がって転がり始めた。「僕はコードを書いてゲームをするのが得意なだけで、決算書なんて見れないし、会社の重要な業務なんて処理できないよ。弟をそんな目に遭わせないでくれよ。お願いだから手伝ってくれ!」
時潤が全く体裁を気にせず、子供のように駄々をこねる姿を見て、橋本燃は瞳孔が開き、自分の目を疑った。
彼女の記憶の中の時潤は、一見自由奔放に見えて、実は決断力があり、物事をきっぱりと処理する人物だった。
燃は彼が自尊心を捨ててまで他人に頼み事をするような人ではないと思っていた。
目の前の時潤は彼女の記憶の中の印象を完全に覆すもので、心の中でどれほど驚いているか言うまでもなかった。
「ビジネスマンとして、私は利益や交換条件のない仕事は一切しない。君が実の弟であっても例外ではない。私に頼みを聞いてほしいなら、条件は温井グループに出社することだ」時雄は断固とした声で言った。
「嫌だよ、絶対に出社なんてしたくない。君は僕の頼みを聞かなきゃダメなんだ。聞いてくれないなら、今日はここに寝転がったままで帰らないからね」時潤は片手で頭を支え、挑発的な目で時雄を見つめ、徹底的に対抗する構えを見せた。
時雄は立ち上がり、まるで帝王のように威厳のある目で時潤を見下ろし、薄い唇を開いた。「好きなだけ寝転がっていればいい。私の要求はたった一つだ。分かったらまた条件について話し合おう」
「時雄さん、今撮影が終わったところなの。アシスタントから弟さんが来たって聞いて、挨拶しに来たわ。弟さんはどこ?」衣装を着て、メイクの整った林田笑々が時雄の後ろを覗き込みながら言った。
「やあ、未来の義姉さん、ここだよ!」時潤は笑々に向かって手を振った。汚れだらけの顔では顔の輪郭もはっきりせず、真っ白な歯だけが見えた。
「この人があなたの弟?」笑々は疑わしげな目で時雄を見た。
時雄はさらりと「ああ」と答えた。「彼が31歳になっても大人になりきれない弟だよ」