「温井社長、あまり悲観的にならないでください。橋本さんの医術と数十人の一流専門家チームの協力があれば、きっとすぐに解毒剤を研究開発できると思います。
それと、橋本燃さんに直接診察してもらうことをお勧めします。血液サンプルだけでは、患者を見ずに正確な診断や治療は難しいでしょう。お願いです、毒に侵されていることを橋本さんに打ち明けてください!」
山本煜司は、温井時雄が橋本燃のために解毒剤を作ろうとして毒に侵されたことも、時雄が命の恩人である燃に心配をかけたくないという気持ちも知らなかった。
だから彼は一心に、時雄に奇妙な毒に侵されていることを燃に打ち明けるよう説得しようとしていた。
彼は燃が優しく寛容な人だと思っていた。たとえ時雄が松本晴子のことで彼女に多くの辛い思いをさせたとしても、彼女は時雄を見殺しにはしないだろうと。
「あの数十人の博士や教授たちは毎日彼女の指導の下で解毒剤を研究しているんだ。本人を診るかどうかはそれほど違いはない。もういい、この話はやめよう。早く戻って休んでくれ!」時雄はいらだちを見せながら追い払おうとした。
もし彼が去った後の遺志を伝える人が必要でなければ、彼は煜司に毒に侵されていることを知らせたくなかった。なぜなら彼は毎日、燃に解毒を頼むよう説得するシーンを演じることになるだろうから。
彼は燃に多くの傷を与えた後で、どんな顔をして彼女に解毒を頼めるというのか?
もし燃にも解毒できなかったら、真実を知らせることは彼女をさらに悲しませるだけだ。それは彼の望む結果ではなかった。
彼は静かに死んでいくことを選び、燃に少しでも心の痛みを与えたくなかった。
「あなたが休まないなら、私も休みません。ここであなたに付き添います!」
「休みに帰らないなら、君をクビにするしかないな。早く帰りなさい、これは上司から部下への命令だ!」時雄は厳しく冷たい目で煜司を見つめた。
以前なら、時雄がこのような目で見ると、煜司は恐れおののいていただろう。
しかし今、それを見て感じるのは無限の悲しみと心の痛みだけだった。
こんなに素晴らしい上司を、神様はどうして奇妙な毒に侵され、たった一年の命しか残されていないようにしたのだろう?
きっと嘘だ、彼の温井社長はきっと大丈夫なはずだ。