温井時雄は藤原月子が八仙箱の機関を動かそうとする手を引き止め、内に秘めた落ち着いた声で言った。「こんなにしっかり鍵をかけているということは、とても貴重なものなんでしょう。家に置いておいた方がいいと思います。私は戦区で毎日訓練があるので、うっかり失くしてしまうかもしれません」
「これはあなたのものよ。本来なら成人したときにあなたに渡すべきだったの。でもお母さんはあなたが失くしてしまうのではないかと心配で、数年間余計に預かっていたの。今こそあなたに渡す時よ」藤原月子はそう言いながら、温井時雄の手から自分の手を抜き、八仙箱の機関を開けた。
中には雪のように純白の羊脂玉が半分と、その下に黄色い封筒が入っていた。
月子は羊脂玉と封筒を取り出し、目に涙を浮かべながら時雄を見つめた。「これはあなたの実の母親が臨終の際にあなたに宛てて書いた手紙よ」
時雄は素早く数歩後ずさり、表情が凍りついた。しばらくして、彼はようやく震える声でゆっくりと口を開いた。
「お母さん、冗談でしょう?」
月子は首を横に振り、真剣な声で言った。「冗談なんかじゃないわ。本当のことよ。あなたは私が産んだ子じゃない。私が身ごもったのは時潤だけ。あなたたちは双子ではないの」そう言いながら、彼女は手紙を時雄に差し出した。
受け入れがたく、消化しきれない知らせだったが、時雄は震える手で封筒を受け取った。
封筒を開けると、中には数枚の便箋と、その間に挟まれた一枚の写真があった。
写真には妊娠7ヶ月ほどの若い女性がソファに座り、彼と目元が少し似ている軍服姿の男性が女性の前にしゃがみ込み、丸くなった女性のお腹に耳を当てていた。
男性の顔には明るい笑顔が広がり、女性は頭を下げて優しい眼差しで男性を見つめていた。
一目見ただけで、彼らが深く愛し合う夫婦で、お腹の中の子供の誕生を共に待ち望んでいることがわかった。
幼い頃から、時雄の周りには常に疑問の声があった。
なぜ彼と双子の弟は似ていないのか?
しかし、双子でも似ていないことはあるし、彼の目元は月子に少し似ていたので、彼は自分が温井家の子供ではないとは疑ったことがなかった。
手の中の写真の男性を見て、時雄は手紙の内容を読まなくても、自分がこの写真の男性の息子であることを確信できた。