第286章 あなたが生きていて、私はとても嬉しい

感情が落ち着いてきた後、橋本燃は宴会で薬を盛られた件について考え始めた。

あれこれ考えてみると、祖母のスープ以外に、高橋夢耶が彼女に薬を盛る機会はなかった。

ホテルでは、スープはずっと祖母のところにあったということは、薬はホテルに行く前に誰かによって仕込まれていたということだ。

たとえ田中黙が宴会に現れなくても、夢耶は彼女を陥れて、宴会で恥をかかせるつもりだったのだ。

祖父が安らかに眠れないのは、真実を知ってしまい、夢耶に口封じのために殺されたからに違いない。

つまり、祖父が悲惨な死を遂げた本当の原因は——彼女自身だった。

燃は抵抗せず、黙に抱かれるままにして、鼻水と涙でぐしゃぐしゃになりながら、思う存分悲しみに浸って泣いた。

黙は何も言わず、ただ温かい大きな手で燃の背中を優しく叩き、行動で無言の慰めを与えた。

どれくらい泣いたのか分からないが、やがて燃は黙を軽く押しのけた。

「大丈夫よ。今からシャワーを浴びるから、帰って」

「ダメだ。今の君は気分が落ち込んでいる。何か考えないか心配だ」

「安心して、そんなに弱くないわ。祖父を殺した犯人を見つける前に、自殺なんてしないから」

「それでも心配だ。ここに残って見守らせてくれ」黙は強引に主張した。

燃はこの男が昔から強引だということを知っていた。死んだふりをして2年後に戻ってきた今、その強引さはさらに鋭くなっていた。

彼に勝てないことを知っていたし、彼と争う気力もなかったので、燃は冷たい目で彼を一瞥すると、寝室に入ってドアを内側から鍵をかけた。

バスタブで湯船に浸かった後、燃は濡れた髪を引きずりながらベッドに横たわり、長い髪をベッドの端に垂らして、目を閉じて眠る準備をした。

「コンコンコン……」ノックの音が響き、真夜中にはとりわけ鮮明に聞こえた。

燃は目を閉じたまま、彼を無視した。

「コンコンコン……」再びノックの音が響いた。

「この鍵は俺には効かないぞ。起きて開けないなら、自分で入るぞ」

彼がそんなに腕が立つなら、わざわざ起きてドアを開ける必要もないじゃない?

燃はまだ聞こえないふりをした。

しばらくすると、機械が動く音が聞こえ、次に寝室のドアが開いた。全過程はわずか3秒だった。

たとえ彼が超一流の泥棒でも、こんなに早くはないはずだ。

「何を使って鍵を開けたの?」