声を聞きながら、後藤澄玲は数言葉を交わした後、電話を切り、車のキーを持って出かけた。
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陸橋北都の方では、彼が車を葉山千代の古いアパートの下に停めると、葉山千代が建物から出てきて、手には袋を持っていた。
「北都」陸橋北都を見て、葉山千代は嬉しそうに駆け寄った。
陸橋北都は開いたままの車のドアをちらりと見て言った。「バッグは中だ」
葉山千代は身をかがめてバッグを取り出し、ドアを閉めて言った。「凡裕は宿題をしているわ。母の状態もこの頃は安定しているの」
陸橋北都は何も言わなかった。
葉山千代はバッグを肩にかけ、陸橋北都を見上げると、目を輝かせ、とても機嫌が良さそうだった。
陸橋北都は両手をポケットに入れ、さりげなく言った。「家が安定したなら、自分のことも考えるべきだ」