第190章 パパ

陸橋北都は突然過去のことを持ち出し、後藤澄玲は太陽穴をさすりながら途方に暮れた。

先ほど陸橋北都の車に乗らなかったのは、彼と二人きりになりたくなかったからだ。昔のことを蒸し返したくなかった。

それに、もう全て過ぎ去ったことだ。

太陽穴をさすっていた右手を離し、後藤澄玲は顔を向けて陸橋北都を一瞥し、無関心そうに言った。「教えたくなかったのよ。子供を独り占めしたかったからね!」

三年経っても、後藤澄玲はあいかわらず気楽で、誰に対しても何に対しても深く気にかけることはなかった。

もちろん、彼女の子供と仕事は別だが。

後藤澄玲の率直な言葉に、陸橋北都は言葉を失った。

三年ぶりで、彼はほとんど忘れていた。後藤澄玲が扱いやすい相手ではないこと、彼女の口からは決して聞きたい言葉が出てこないことを。