第175章 紅顔は知己にあらず(5)

彼女の心は、少しずつ冷えていった。最後の一筋の希望も、彼の言葉によって地獄へと叩き落とされた——自分を利用し、自分の父親を利用するだけでは足りず、結婚も子供までもが彼の道具になっていたのだ!

こんな男を、自分は目が見えなかったのか?何年もの間愛し続け、彼の愛のなさ、彼の冷たさに言い訳を探し続けてきた。ずっとずっと自分を欺いてきたのだ!

今こそ、夢から覚めるべき時なのだろう!

この質問は、彼女が意図的にしたものだった。彼の答えは、想像するまでもなく分かっていた!

案の定、彼は彼女を失望させなかった。彼の返事は偽りの諦めを装いながらも、その口調に隠しきれない得意げさが滲み出ていて、吐き気を催すほどだった。「晴音、もし君のお父さんが本当に助けてくれないなら、僕はもうおしまいだよ!こんな僕でも、君はついてきてくれるのかい?子供は、もう下ろすしかないだろうね。何も持たない僕に、子供を育てる余裕なんてないからね!ああ、晴音、僕があまりにも役立たずで、君が期待する結婚式も、幸せな家庭も与えられなくて…」

「うん、私もそう思う。じゃあこうしましょう。今夜帰って父にもう一度お願いしてみるわ。もし本当にダメなら、明日子供を下ろしに行くわ」白石晴音は冷たく言い放った。

女は、一度現実を見極め、決心を固めれば、その心は男に負けないほど強くなるものだ!

「晴音?」斉藤空也はようやく晴音の態度がおかしいことに気づき、顔を下げて彼女の表情をじっと見つめ、疑問の表情を浮かべた。

「うん、父と話し合いに帰らなきゃ。遅くなると休んでしまうから!空也、あなたの望み通りになるといいわね!」晴音は顔を上げ、空也に向かって明るく微笑んだ。まるで世間の苦しみを知らない令嬢のような様子で、先ほどの冷たさは彼の錯覚だったかのようだった。

しかし彼女の言葉の意味を、空也は理解していなかった。彼が理解した時には、すべてが取り返しのつかないところまで行ってしまっていた。

「うん、早く帰りなよ!」空也は彼女を急かした。彼女の笑顔は見えても、目の中の傷は見えなかった。

「行くわ、さようなら!」晴音は小さく呟くと、彼の腕から離れ、ゆっくりと歩き始めた。振り返ることはなかった。

「晴音!」空也は晴音の背中に向かって、思わず声をかけた。自分でもなぜそうしたのか分からなかった。