第208章 本当に手を出さない(5)

この一団の中で、彼だけがこの家族の前で話せる人物だった。

「ええ、自分で気をつけないとね。今は身重なんだから、何事も軽率にはできないわ。責めているわけじゃないのよ、ただ心配しているだけ！」葉山淑恵は斎藤遥が彼女をかばうのを見て、従業員の前で彼女を困らせるのも適切ではないと思い、渡辺悟が差し出した梯子を降りることにした。

この姑と嫁が初めて従業員の前で同時に姿を現したとき、淑恵は威厳と気品で勝っていたが、佐藤若菜は落ち着いた態度と大らかな雰囲気で勝っていた。

淑恵の高慢な態度と全身から漂う気品に比べ、皆は若菜の専門的で簡潔な印象をより好んでいた。

「発表会まであと三日だね、みんな頑張ってくれてありがとう！悟、場所を予約してくれ、今夜みんなで集まろう！」斎藤蓮は淑恵の手を軽くたたきながら渡辺に言い、うまく話題を家庭の事から仕事に移した。

渡辺は周りの同僚を見回した。皆が緊張した表情をしており、明らかに大小の上司と一緒に食事をすることを望んでいなかった——よく言われるように、上司と食事をすると消化不良になりやすい。

渡辺は察して斎藤蓮に言った。「社長、わざわざ戻ってこられたのに、まだ若奥様とゆっくり話す時間もないでしょう。それに皆仕事に追われていますし、発表会が終わったら、一緒に祝いましょう！」

蓮は彼を一瞥し、軽く頷いた。「それもそうだな。皆、仕事に戻りなさい。盛大な祝賀会を目指そう！」

「遥、若菜、明日の夜は古い別荘に来なさい！延彦と空也にも電話して、一緒に帰ってくるように言いなさい。」蓮は遥にこう言い残すと、皆に挨拶をして淑恵と先に立ち去った。

家族全員が前回の家族の集まり以来、再会していなかった。

今回も、空也はまだ戻ってこなかった——斎藤氏がアンジェに買収されて以来、彼はその数十億円を手に入れると、皆の視界から消え、家族との連絡も取っていなかった。

夕食の間、誰もこの人物について触れなかった。

「天雄、若菜ママのお腹の中にいるのは弟かな、それとも妹かな？」飛雨は天雄を抱きしめ、若菜の上に登って蹴ったり踏んだりするのを防いでいた。