第206章 本当に手を出さない(3)

「もう、私が小さい器だってことにしておきなさいよ。うるさいわね、早く行きましょう!」佐藤若菜は嬌声を上げながら、斎藤遥を上目遣いで見つめた。その微笑みには色気が漂っていた。

遥はその姿に見とれてしまい、若菜に再び急かされてようやく我に返り、身を横に向けて車を発進させた。

生活環境はもはや単純ではなく、二人の恋愛も順風満帆とは言えない。彼は努力しなければならない、彼らの関係をもっとシンプルに、もっと純粋にするために!

「そう、それでいい、とても良いわ。あとは照明を加えれば完璧よ!」

「発表会当日は、ユリの回転ライトを設置して、5分間で一周するスピードに調整して。音楽は『野生のユリも春を迎える』を使いましょう。」

明石葵の真剣で澄んだ声が中から聞こえてくると、若菜と遥は顔を見合わせて微笑んだ。二人は同時に同じことを思った——人が真剣に何かに取り組んでいる時が、最も美しい!

「斎藤部長!」

「若奥様!」

今回、葵は挨拶をしなかった。遥が彼女との関係を断ち切るために、彼女が自ら設計した展示台を壊そうとしたことに対して、彼女はその場では正義感に燃えて堂々と言い返したが、現場を離れた後、もう涙を抑えることができなかった!

この男は!

なんて冷酷なの!

二人は、お互いの気持ちを明確に言葉にしたことはなかったけれど、目を合わせて微笑み合う時に見せる息の合った様子は、自分一人の妄想だったのだろうか?

まあいいわ、彼が自分に興味がないとしても。でも彼は良心に手を当てて、自分に好感を持っていないと言い切れるのだろうか?一人の男として、彼を慕い、彼を愛する女の子にこんなに冷たくするなんて、本当に紳士的じゃない!あまりにも人を傷つける!

しかも、それは別の女性のためなのだ!

遥が若菜を腕に抱いて入ってくるのを見て、葵はゆっくりと顔を向け、彼らを見つめると、思わず目が赤くなったが、意地を張って何も言わなかった。

若菜は遥の腕から静かに身を離し、その場にいる人々に軽く挨拶した。「お邪魔します、自由に見学させてください。私はこういうことにあまり詳しくないんですが、斎藤部長からこの展示ホールがとても創造的だと聞いて、ぜひ見てみたいと思ったんです!」