第367章 蛇を誘い出す(1)

言い終わると急いで外へ走り出したが、ふと思い直して立ち止まり、振り返って斎藤蓮に言った。「お父さん、斎藤遥には言わないでくれる？」

蓮が硬い表情でうなずくのを見て、ようやく安心して立ち去った。

午後。

「どうしたの？」佐藤若菜は大邸宅から帰って服を着替え、斎藤氏に資料を準備しに行ったが、正門が人だかりに囲まれて入れないでいた。

「金では命は買えない、非情な社長、出てこい！」群衆の中から誰かが大声で叫んでいた。

「妻よ、お前が良くならなかったら私と娘はどうすればいいんだ！この非情な社長め、人間じゃない！」男の悲痛な声が群衆の中から響き渡り、その患者は担架に横たわったまま、人々に運ばれて斎藤氏の整えられたばかりのロビーに置かれていた。

若菜はこの状況では身を引くべきだと分かっていたが、その患者を見た瞬間、無意識のうちに中へ歩み寄っていた。

「社長夫人だ！早く、彼女を止めろ！正義を求めるんだ！」誰かが若菜を見つけ、大声で叫んだ……

「早く、彼女を止めろ、逃がすな！正義を求めるんだ！」別の声がすぐに続いた。

このような状況で、彼女の美しさは刺激となり、優雅さはさらなる怒りを引き起こした。高まる叫び声とともに、怒った人々が振り向き、潮のように彼女に押し寄せてきた……

彼女は人形のように群衆に押され、引っ張られ、避けることもできなかった。この潮のような群衆は彼女の目には幻影や背景のようにしか映らず、彼女の目に大きく映るのは担架の上で全身が腐敗している患者だけだった。

あっという間に、髪も服もぐちゃぐちゃになり、顔には指の跡が何本も付いていた。

「何をしているんだ！やめろ、やめろ！」ロビーの警備員たちは元々エレベーターを守って彼らを上に行かせないようにしていただけだったが、今や彼らが手を出すのを見て、皆で彼女を守りに来た。警備員の出動は群衆をさらに怒らせた……

上階、遥のオフィスにて。

「三男坊、警察に連絡済みです。すぐに人が来ます！記者も来る予定です！」渡辺悟が遥に報告した。

「よし、私がいない間、会社は君と若菜で見ていてくれ。証券関係は鈴木瑛子に任せておけばいい。何かあれば電話してくれ」遥は冷静に指示を出した。

「はい！三男坊！ただ…本当にこうするしかないのですか？」悟はため息をつき、再び尋ねた。