真理子は麺を練り終え、鉢を竈の上に置いて温めておき、台所から出て梨の木の下の石台へ手を洗いに行った。そこから見ると、居間には何人もの人が立っていた。田原青雲、吉田暁文、藤本さん、おばあさんは忙しそうに動き回り、椅子を拭いたり火鉢を運んだりしながら、誠一にお湯を汲んでくるよう指示していた。田原浩誠はおばあさんの言うことをよく聞き、ちょこちょこと走ってお湯の入った急須を持ってきたが、すぐに吉田暁文に止められた。
「誠一、触らないで。火傷したらどうするの?」
真理子は突っ込みたくて仕方なかった。手の水滴を振り払いながら近づき、言った。「田原浩誠、うちの鶏や鴨は放し飼いで汚いし散らかってるし、家中にシラミやナンキンムシがいるのよ。あなたたち都会の人は怖くないの?早く帰った方がいいわ。靴が汚れたり、シラミをもらって帰ったりしたら大変でしょ!」
藤本さんは真理子を見て微笑んだ。この少女が田原青雲の長年行方不明だった実の娘だと知り、なるほどと思った。確かに彼に似ている部分がある。彼の娘らしく、胆力があり、気骨があり、自信がある。初対面から並外れていた。真夜中に人里離れた場所で歌い踊り、映画館の前でブドウを売り、自分を脅して部屋を取らせ、舞踊団の枠を断るなど…
「真理子ちゃん、君の家のシラミとナンキンムシはそんなに従順なの?昨夜客室で一晩過ごしたけど、全然噛まれなかったよ。だったら体に付いたままでもいいんじゃない?」藤本さんは冗談を言った。
暁文はちょうど座ったところだったが、これを聞いて竹椅子から飛び上がり、両方のズボンの裾を払った。
青雲は眉をしかめた。「暁文……」
おばあさんの前でこんな無礼な振る舞いをするなんて。
誠一は水の入ったコップを持ってきて暁文に差し出した。「ママ、水どうぞ。お姉ちゃんの家の水はとても美味しいよ。お姉ちゃんは冗談を言ってるだけだよ。おじいさんとおばあさんの家はとても清潔で、シラミもナンキンムシもいないよ。」
「いないわけないでしょう?田舎にはネズミがいるし、鶏や鴨を飼っているし、こんな環境ではナンキンムシがいるに決まってるわ!」
暁文はそう言いながら、誠一が差し出した虹色のガラスコップに手を伸ばした。「火傷しないでね。このコップも清潔かどうか分からないし…」