午後、下村青葉は東京に戻った。
墨都から東京までは遠くなく、車で行けば、わずか2時間ちょっとの道のりだった。
東京に戻ると、下村青葉はすぐに自分の母親を訪ねた。
浅野梅子は40代半ばで、見た目は優雅で気品があった。
東京では、浅野家は最上流の家柄とは言えなかった。
しかし浅野家と松下家は親しく、松下家の光を浴びることで、ようやくピラミッドの頂点に片足を踏み入れることができたのだった。
下村青葉が事情を話すと、浅野梅子は年長者だけあって、そこまで驚かなかった。「どれくらい似ているの?それに、世の中には似た人なんていくらでもいるわ。何をそんなに驚いているの?」
下村青葉は言った。「松下叔父さんの机にそんな写真が飾られていなかったら、私もそこまで驚かなかったわ」
「あなた何をしようとしているの?松下牧野はそう簡単に騙せる人じゃないわよ」浅野梅子は彼女を睨みつけた。「言っておくけど、余計なことはしないで!」
「松下叔父さんが手強いのは知ってるわ。でもお母さん、覚えてる?松下叔父さんの会社の部長で、あの写真に3、4割くらい似ている人がいて、松下叔父さんがその人に株まで与えたって話…」
この件については、浅野梅子も耳にしていた。
彼女が少し興味を示したのを見て、下村青葉はさらに続けた。「この田口優里は、8、9割は似ているわ。もし松下叔父さんが本当に気に入ったら、私たち家族も…功績があったことになるわね」
「それはそうね。でも、あなたが言うには田口優里は墨都にいるんでしょう?普通に考えて、向こうの人が東京に来るとは思えないわ」
「お金は人の心を動かすものよ」下村青葉は言った。「それに、松下晴彦がいつ目覚めるかわからないし、もし目覚めたら、その時はもう手遅れかもしれないわ」
浅野梅子はそう考えると、確かにその通りだと思った。
松下家は東京では最上流の家柄だった。
しかし松下家は子孫が少なく、唯一の孫である松下晴彦は交通事故で植物状態となり、ベッドで5、6年も横たわったままだった。
松下家には後継者がおらず、現在会社で力を発揮している数人の助手たちは、みな松下牧野の母方の親戚の子供たちだった。
噂によると、松下牧野は母方の親戚の子供たちの中から後継者を選び、会社の経営を任せる準備をしているという。