上尾剛は立ち止まらず、報告のために戻らなければならなかったので、田口優里に微笑みかけて去っていった。
三井和仁はまだ会社にいた。
足の治療を始める前は、彼は一日三食のほとんどを会社で済ませていた。
今は田口優里が処方した薬膳があるので、ちょうど家のシェフに任せることができた。
上尾剛は家に帰って食事を取り、まず田口優里に届け、それから会社に戻って三井和仁に食事を届けた。
三井和仁は彼が食事を並べるのを見ながら、ゆっくりと尋ねた。「彼女は何も言わなかったか?」
上尾剛は答えた。「ありがとうというのはどうでしょう?」
三井和仁は鼻を鳴らした。「彼女の口から良い言葉が出るなんて期待するな。」
上尾剛は笑いながら言った。「旦那様はまだ一歩も踏み出していないのですね。将来あなたたち二人が一緒になれば、甘い言葉は間違いなく尽きないでしょう。」
三井和仁は目を細め、眉を上げ、満面の得意げな表情で笑った。「そうだとも!」
上尾剛は急いで尋ねた。「では夕食は…」
「夕食はまた後で考えよう。」三井和仁は手を拭いて食事の準備をした。「これからは毎日昼食を彼女に届けてくれ。」
上尾剛は急いで承諾した。
田口優里はまだ自分の昼食が毎日確保されることを知らなかった。
今日の昼は、彼女は本来田村若晴と外食する約束をしていたが、三井和仁が人を遣わして食事を届けさせたので、田口優里は直接お弁当を持って田村若晴を探しに行った。
彼女は漢方科にいて、主任以外の数人の医師は共同の事務室を使っていた。
田村若晴には自分の事務室があった。
彼女がお弁当を持ってくるのを見て、ちょうど彼女を探しに行こうとしていた田村若晴は不思議そうに尋ねた。「これはどこかでテイクアウトしてきたの?」
「違うよ。」田口優里は食事箱を置いた。「三井和仁が人に届けさせたの。」
田村若晴も遠慮なく、食事箱を開けて見た。「わぁ、こんなに豪華?三井様は本気なのね。」
届けられた食事は量が十分で、二人で食べても足りた。
ほぼ食べ終わったころ、田口優里はようやく言った。「私、野井北尾と別れることにしたの。」
田村若晴は一瞬驚いたが、すぐに笑って言った。「別れて正解よ、とっくに別れるべきだったのよ。」
「なぜか聞かないの?」