田口優里は今や漢方科の人間なので、腫瘍外科のこちらに予定があっても、まず井田部長と河井医師に許可を得てから、他科の手伝いができるのだ。
彼女が漢方科に戻ると、また松下晴彦の治療に行った。
その後、退勤時間になった。
野井北尾はここ数日姿を見せないが、彼の食事は毎日時間通りに届けられていた。
彼は田口優里のマンションの下で人を待たせ、田口優里を見かけると後をついて食事を届けさせていた。
本当に会わず、邪魔をしないという約束を守っていた。
三井和仁も喧嘩した日以来、姿を見せていなかった。
しかし今夜、退勤後、食事を済ませた田口優里は自ら三井和仁に電話をかけた。
三井和仁は以前は極度に自己陶酔的で、世の中に彼の目に適う女性はいないと思っていた。
また、彼の魅力を無視できる女性もいないと。
そして、彼は田口優里に出会った。
最初は、彼もこの女性を気にも留めていなかった。
治療は治療、それ以外は別の話だ。
しかし接触が増えるにつれ、三井和仁は気づいた。この女性のあらゆる部分が彼の心に合うように作られているようだった。
もちろん外見のことではない。
言動や振る舞い、性格や気質のことだ。
三井和仁の目には、田口優里はまるでふわふわした子猫のように映った。
普段は穏やかで無害だが、からかいすぎると、小さな猫が爪を出し、ピンク色の肉球を見せ、可愛らしく怒る。
あるいは田口優里がどんな反応をしても、三井和仁にとっては自分の心に刺さるように感じられた。
彼はこれまで恋愛をしたことがなく、これが「情人眼里出西施(恋する人の目には美人に見える)」というものなのかもしれないと思った。
残念ながら、田口優里は彼にチャンスを与えなかった。
そうでなければ、互いに惹かれ合う感覚は、もっと素晴らしいはずだ。
三井和仁はここ数日、次にどうすべきか考えていた。
彼は以前少し急ぎすぎたのかもしれないと感じていた。
ビジネスのように、時には一歩引くことで前進することもある。
しかし正直なところ、田口優里から自ら電話がかかってきたのを見て、三井和仁はとても嬉しかった。
「優里ちゃん?」彼は電話に出て、明るい調子で言った。「食事はした?」
「食べたわ」田口優里は平淡な口調で言った。「あなたと相談したいことがあるの」