「奥様は先ほど胸が痛くなり、強心丹を飲みました」と使用人が傍らで言った。
松下牧野は隣のソファに座り、「どうしても無理なら、療養院に少し滞在されてはいかがですか」と言った。
「療養院に行ったら、また出てこられるのかしら?あなたは私を老人ホームに送りたいんじゃなくて、私を追い出したいのね!」
松下牧野は無表情で彼女を見つめた。「お母さん、どんな人の言葉も信じるのに、なぜ実の息子の言葉だけは信じないんですか?」
「行くわ」と老婦人は立ち上がった。「病院へ行きましょう。あなたと晴彦の鑑定を私の目で見届けたいわ!」
「山口幸子はあなたが選んだお嬢様で、晴彦は彼女が産んだ子です。今、あなたは晴彦が私の息子ではないと疑っている。それがどういう意味か分かりますか?」
息子の冷たい表情を見て、老婦人はもごもごと何も言えなかった。
「それは、あなたが丹念に選んだお嬢様が、他の男と密かに関係を持ち、私に緑の帽子をかぶせたということです。私が他人の子を育て、二十数年も…」
「もう言わないで!」老婦人は顔を引きつらせた。「もしかして…病院で取り違えられたのかしら?晴彦が松下家の人に似ていないと思ったの」
「誰があなたの耳元でそんなことを言ったんですか?」松下牧野は冷たく尋ねた。「私はまだ死んでいないのに、もう私の財産を狙っているんですか?」
老婦人も馬鹿ではなく、彼の言葉を聞いて、すぐに気づいた。「あぁ、これは…」
松下牧野は立ち上がった。「お母さん、親子鑑定をしたいなら、私はお付き合いします。私たちが採血するところを見ていただいても構いません。でも私こそがあなたの息子です。もう少し私を信頼してくれませんか?他人の言うことは何でも信じるのに、私の言うことはまるであなたを害するものだと思っている!」
「でも晴彦は…やはり鑑定をしたほうが安心するわ」
「お好きにどうぞ」と松下牧野は言った。「今から病院へ行きますか?」
「ええ、そうね」
老婦人はやはり安心できなかった。
彼女の実の弟は長い間躊躇した末、この情報を彼女に明かした。
彼女はそれを聞いた時、気を失いそうになった。
強心丹を一握り飲み、少し落ち着いてから、松下牧野に電話をかけた。
今考えると、この件は突然のことで、事の真相は弟の口から出た言葉だけが頼りだった。