第275章 私は人格を担保にする

これに田口優里は驚いた。「あなたは気づいたの?」

「黒川孝雄があなたを見る目が違うわ」と田村若晴は言った。「彼はまだあなたのことが好きよ。だから私は彼を盾にすることに同意したの。そうすれば、将来何か問題が起きる心配もないでしょ」

「でも……」

「でもなんてないわ」と田村若晴は言った。「安心して、私はわかってるから」

田口優里は知っていた。田村若晴はいつも主体性があることを。

そして彼女が物事を処理するときは、いつも決断力があり、きっぱりとしている。

自分とは違って、いつも心が弱くなりがちだ。

田口優里は事情を彼女に話した。彼女がどうするかは、田口優里はもう干渉しないことにした。

その夜帰宅すると、思いがけず野井北尾もそのことを知っていた。

彼は田口優里に尋ねた。「黒川孝雄が田村若晴と付き合うって聞いたけど?」

田口優里は驚いた。「どうして知ってるの?」

野井北尾は言った。「孝雄から電話があったんだ」

黒川孝雄は、自分が田口優里の親友と接触するなら、田口優里に一言言っておくべきだと思った。

しかし彼は今、嫌疑を避けるため田口優里に連絡することはせず、野井北尾に電話をかけ、さりげなく数言葉を伝えるしかなかった。

田口優里は「ああ」と言った。「甘子が私に言ってたわ。二人はとても偶然で、甘子が友達のために見合いを手伝っていて、ちょうど黒川孝雄に会ったの」

野井北尾はそういったことは気にせず、彼が心配していたのは別の問題だった。「甘子は彼にとても満足してる?」

そうでなければ、彼と会って様子を見ることに同意しないだろう。

田口優里は言った。「甘子は今のところ恋愛の予定はないけど、家族への対応もあるから、二人は協力することにしたの」

「ただの協力?」

「今はそうよ、その後は……誰にもわからないわね」

野井北尾は田口優里を見つめ、言いかけては止めた。

田口優里は彼に尋ねた。「どうしたの?」

「何でもない」野井北尾は彼女を抱きしめた。「本当に君を連れて、誰も私たちを知らない場所に行きたいよ」

田口優里は笑って言った。「最近、変な考えが多いわね」

「変じゃない」と野井北尾は言った。「以前の私は、まさに時間を無駄にしていて、生活を味わうことを知らなかった」