第288章 贈り物

田口優里の表情は変わらず、淡々と視線を移して松下晴彦を見た。

松下牧野の目に失望が光ったが、人が多く、彼は一言も言えなかった。

恒例の回診の後、田口優里はまた大勢の医療チームと一緒に去っていった。

松下牧野はやはり田口優里と話すことができなかった。

彼が追いかけて病室を出ると、田口優里が別の部屋に入るのが見えた。

午前中ずっと、松下牧野は田口優里と二人きりになる機会がなかった。

松下晴彦は彼の心ここにあらずな様子に気づいた。「お父さん、どうしたの?」

「何でもないよ」松下牧野は微笑んだ。「もう数日したら東京に戻るから、君の主治医にどうお礼をしようか考えていたんだ。彼女がいなければ、君がこんなに早く目覚めることもなかっただろうから」

松下晴彦にとって、田口優里は命の恩人だった。

彼はベッドに横たわり、無知無覚で、世界のすべてを感じることができず、時間の流れも知らなかった。

死んでいるのとほとんど変わらなかった。

田口優里のおかげで、彼は混沌から目覚めることができた。

彼に新しい人生を与えてくれた。

しかし彼は気づいていた、この主治医の態度が少し冷たいことに。

彼は幼い頃から裕福な生活を送り、松下牧野も彼に優しく、小遣いも気前よく与えてくれた。松下晴彦の周りには彼にへつらう人々が絶えなかった。

多くの人が彼の後をついて回り、友達になりたがった。

これはもちろん、彼が松下牧野の息子だからだ。

考えてみれば、彼に対してそれほど熱心なら、松下牧野に対しては、その人たちはもっと熱狂的だろう。

しかし田口優里は松下家の人々に全く興味がないようで、態度も卑屈でも傲慢でもなかった。

松下晴彦は彼女に特別良い印象を持っていた。

彼が目を開けた時、最初に見た人は田口優里だった。

田口優里の顔立ちは完璧だったが、攻撃的な美しさではなかった。

小川の流れのように、水墨画の山河のように。

人を静かな気持ちにさせるような。

松下晴彦は密かに持つべきでない思いを抱いていた。

松下牧野に尋ねて初めて知ったのは、田口優里には夫がいるということだった。

しかしそれでも、彼の田口優里への印象は非常に良かった。

結局のところ、田口優里は彼の命の恩人だった。

しかし、普通の人なら、松下牧野の息子を救ったのだから、この機会に関係を築こうとするだろう?