第324章 社会に害を与えるな

最初に婚前契約を結んだということは、田口義守がその条項に同意したということだ。

亀山家が彼を助け、彼を大金持ちにした。

その代わりに、彼は良い夫であり、良い父親でなければならない。

この世の中では、得るものがあれば失うものもある。

他人の子供を育てることが不満だと思い、夫婦が表面上だけの関係であることを受け入れられないなら、最初から契約に署名しなければよかったのだ。

契約に署名し、お金を稼ぎ、愛人を作り、子供を産ませておいて、お前はまだ自分が不満だと言いに来るのか?

良いことは全部お前一人が独り占めするつもりか?

田口義守は彼の話を聞いて、顔に少し気まずい表情を浮かべた。

彼は言った:「私にも選択肢がなかったんです...私は男です、仕事での成功だけでなく、家庭の温かさも、家族の楽しみも当然望んでいます。でも沙梨は...沙梨は私をただの他人としか見ていなくて、本当に仕方なくて、それで...」

亀山由美がその時田口義守に対してどんな態度だったかを知れば知るほど、松下牧野は心を痛めた。

今となっては、亀山由美が本当に田口義守を好きで、幸せに暮らしていたほうがよかったと思う。

亀山由美があの時妊娠していて、心を傷つけられ、その後の十数年間、自分のことを忘れなかったと考えるだけで。

松下牧野は自責の念で死にたくなるほどだった。

心が痛んで呼吸するのも辛かった。

もしこの世に後悔薬があるなら、彼はすべてを払ってでも手に入れたいと思った。

もし時空を超えることができるなら、今すぐ死んでもいいから、過去に戻って亀山由美に「ごめん」と「愛している」と言いたかった。

しかし、今となっては、彼のいわゆる謝罪と愛情は、あまりにも空虚に思えた。

口では亀山由美を愛していると言いながら、別の女性と結婚し、他人の子供を育てた。

たとえ彼がずっと貞操を守っていたとしても、それがどうした。

彼は亀山由美に直接「幸せですか」と尋ねる勇気すらなかった。

彼は男とも言えない!

たとえ当時の彼の行動が、すべて投げやりな気持ちからだったとしても、老婦人への復讐のためだったとしても。

でも、何の意味がある?

彼は自分の人生を無駄にしただけでなく、亀山由美の気持ちも裏切った。

本来なら幸せになれたはずの二人が、このようにすれ違ってしまった。