第67章 私には妻がいる

病院では、夕方になっても患者が出入りしていた。

「次の方。」

畑野志雄はパソコンにデータを入力しながら、眉間にわずかに不満の色を浮かべていた。

今自分が医者であることを忘れなければ、この女性はきっと彼に怒鳴られて追い出されていただろう。

「畑野先生、私の足はまだ痛いんです。」

女性患者はとても若く、20歳前後に見えた。

恋に勇敢だった。

彼女のすねは打撲して、数針縫っていた。

看護師は礼儀正しくこの女性患者に先に出るよう促した。「お嬢さん、畑野先生はもう痛み止めの薬を処方されましたので、お薬を受け取ってお飲みください。他の患者さんもお待ちですので。」

女性患者は笑いながら続けた。「最後に一言だけ言わせてください。畑野先生、彼女はいらっしゃいますか?」

畑野志雄は椅子の背もたれに寄りかかり、マスクの下の薄い唇が上がった。「私には妻がいます。子供はもう6歳です。」

若い女性患者は目に涙を浮かべ、赤い唇を噛んだ。「すみません、若くて美しい女性に変えたいとは思いませんか?」

看護師は「……」この女性、頭がおかしいのでは?

畑野志雄は軽く笑い、メッセージを送った。

診察室の外で待っていた奥田梨子は畑野志雄からのメッセージを受け取り、診察室のドアを開けて入った。

彼女が入った瞬間、畑野志雄が優しい声で彼女に呼びかけるのが聞こえた。「妻よ、来たね。」

奥田梨子は「?」

若い女性患者は振り返って見た。

美しく妖艶な女性が見えた。若く、美しい。

女性患者は信じられない様子だった。

彼女は実は前もって、畑野先生は結婚していないと聞いていたからこそ、大胆に恋を追いかけていたのだ。

今この美しい女性は?

「畑野先生、本当に奥さんとお子さんがいるんですか?」

看護師は再び女性患者に退出するよう促した。彼女は顔を赤らめ、恥ずかしさを知っているようで、杖をついて急いで立ち去った。

奥田梨子は愛情たっぷりのお弁当を置き、笑いを含んだ目で畑野志雄を一瞥した。「お弁当を何個か多めに用意したから、同僚がまだ食べていなかったら、あげてもいいわよ。」

彼女はそう言うと手を振って出て行った。外にはまだ診察を待つ患者がいたからだ。

先ほどの女性患者よりもさっぱりとした態度だった。