病院では、夕方になっても患者が出入りしていた。
「次の方。」
畑野志雄はパソコンにデータを入力しながら、眉間にわずかに不満の色を浮かべていた。
今自分が医者であることを忘れなければ、この女性はきっと彼に怒鳴られて追い出されていただろう。
「畑野先生、私の足はまだ痛いんです。」
女性患者はとても若く、20歳前後に見えた。
恋に勇敢だった。
彼女のすねは打撲して、数針縫っていた。
看護師は礼儀正しくこの女性患者に先に出るよう促した。「お嬢さん、畑野先生はもう痛み止めの薬を処方されましたので、お薬を受け取ってお飲みください。他の患者さんもお待ちですので。」
女性患者は笑いながら続けた。「最後に一言だけ言わせてください。畑野先生、彼女はいらっしゃいますか?」
畑野志雄は椅子の背もたれに寄りかかり、マスクの下の薄い唇が上がった。「私には妻がいます。子供はもう6歳です。」
若い女性患者は目に涙を浮かべ、赤い唇を噛んだ。「すみません、若くて美しい女性に変えたいとは思いませんか?」
看護師は「……」この女性、頭がおかしいのでは?
畑野志雄は軽く笑い、メッセージを送った。
診察室の外で待っていた奥田梨子は畑野志雄からのメッセージを受け取り、診察室のドアを開けて入った。
彼女が入った瞬間、畑野志雄が優しい声で彼女に呼びかけるのが聞こえた。「妻よ、来たね。」
奥田梨子は「?」
若い女性患者は振り返って見た。
美しく妖艶な女性が見えた。若く、美しい。
女性患者は信じられない様子だった。
彼女は実は前もって、畑野先生は結婚していないと聞いていたからこそ、大胆に恋を追いかけていたのだ。
今この美しい女性は?
「畑野先生、本当に奥さんとお子さんがいるんですか?」
看護師は再び女性患者に退出するよう促した。彼女は顔を赤らめ、恥ずかしさを知っているようで、杖をついて急いで立ち去った。
奥田梨子は愛情たっぷりのお弁当を置き、笑いを含んだ目で畑野志雄を一瞥した。「お弁当を何個か多めに用意したから、同僚がまだ食べていなかったら、あげてもいいわよ。」
彼女はそう言うと手を振って出て行った。外にはまだ診察を待つ患者がいたからだ。
先ほどの女性患者よりもさっぱりとした態度だった。