第71章 梨ちゃん、おやすみ

天成、広報部。

涼宮陽子が『フライオーバー』を歌い終わった時、広報部は各大手プラットフォームでの宣伝を始めた。

広報部の主任は眉をしかめた。「木村楽人が歌い終わるまで待ったほうがいいのでは?」

実は広報部主任は、以前涼宮陽子が木村楽人を抑え込もうとしていたのは、木村楽人の音楽の才能が彼女より優れているからではないかと思っていた。

広報部のマネージャーは冷静に言った。「待つ必要はない。我々は涼宮陽子が歌った『フライオーバー』を宣伝するだけで、誰かを過度に持ち上げたり貶めたりしているわけではない」

広報部主任も考えてみれば、彼らは宣伝をしているだけだった。

天成の広報はお金をかけることを惜しまず、有名なブロガーを雇って宣伝した。

そのため、ネットが発達した社会では、涼宮陽子が番組で歌った曲はすぐに注目を集めた。

新しいファンたちは次々と『一緒に歌おう』にチャンネルを変え、涼宮陽子に投票する準備をしていた。

しかし、彼らがそのチャンネルに切り替えたとき、心に直接響く空気感のある歌声を聴いた。

「鳥は...飛べる、行きたい場所へ飛んでいける...でも私は...」

ステージに立つ女性は、小さなスーツと黒いズボンを着て、高く結んだポニーテールをしていた。

彼女の歌声は、透明感があり、心を揺さぶるものだった。

特に歌詞は、聴いているうちに涙が出そうになるほどだった。

歌声が歌詞の世界観を伝えていた。

【彼らのような凡人も、自由に飛びたいと思うが、生活はそれを許さない】

天成は涼宮陽子の宣伝をして番組を見るように誘導したつもりだったが、新しいファンたちは瞬時に応援する対象を変えた。

彼らは今ステージに立っている女性を応援したいと思った。

木村楽人は成功した。彼女は奥田梨子がこの曲を書いた時の世界観を完璧に歌い上げた。

彼女の人気は急上昇していた。

梶村直子はステージの下で、口を押さえて涙を流し、彼女のために拍手を送った。

木村楽人の目には涙の光が宿っていた。

歌が終わりに近づくと、木村楽人はカメラに向かって大きなハートマークを作り、マイクを取って告白した。「楽田知寄さん、この曲を歌う機会をくれてありがとう。あなたを愛しています」

涼宮陽子は誤って保温ボトルをひっくり返した。

楽田知寄?