ボディーガードは眉をひそめて電話の向こうの奥田梨子に言った。「今朝6時に、木村さんとお母さんが一緒に家に帰ってスープを煮込むと言っていました。」
「私たちは全員が下で見張っていましたが、7時頃になっても彼女たちが下りてくるのが見えなかったので、スープを煮込む時間を計算して、状況を電話で確認しました。」
ボディーガードもかなり警戒心が高かった。
彼女たちは何の問題もなく家にいたはずなのに、突然姿を消してしまった。
「彼女たちはおそらくこのビルのどこかの部屋にいると思います。すでに警察に通報しました。」
ボディーガードは警察官ではないので、理由もなく他人の家に入って捜索することはできない。
24時間経たないと失踪届は受理されないが、人身の安全に関わる場合、警察は事件として取り扱う。
しかし、一軒一軒調べている間に、木村楽人に何か不測の事態が起きる可能性もある。
このビル全体で36世帯がある。
奥田梨子は車の中に座り、心の中では焦っていたが、それでも冷静さを保つよう自分に強いた。「コミュニティの警備員を呼んで、各家庭を一軒一軒訪ねて、焦げ臭いにおいがすると言ってください。」
コミュニティの警備員がいれば、ほとんどの住民はドアを開けるだろう。この時間帯には仕事に出かけている人もいるかもしれない。
奥田梨子はボディーガードとの電話を切った。彼女は畑野志雄に電話をかけようと思った。
しかし今朝、畑野志雄が出かける時に、午前中に外科手術があると一言言っていた。
奥田梨子は直接木場左近に電話をかけた。「木場秘書、幸福ガーデンの各住民の過去3ヶ月間の水道光熱費の支払い情報を最も早く調べる方法はありますか?」
36世帯の中から、まず最も疑わしい家を選別して調査することができる。
木場左近は「奥田さん、できるだけ早く調べます」と言った。
彼は理由を尋ねる時間もなかったが、奥田梨子の言葉が切迫していることを感じ取った。
木場左近が「できるだけ早く」と言えば、本当に早かった。
結局のところ、奥田さんは間違いなく、将来彼の社長夫人になるはずだった。
奥田梨子が幸福ガーデンに到着したとき、ちょうど木場左近が調べた水道光熱費の資料を彼女に送ってきた。
とりあえず各世帯の人数は考慮しない。